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4車線の橋の袂までは歩道も広めだ。いつの間にかそこをロードバイクで立ち漕ぐ少年と、少年よりいくらか年上に見える少女が一緒になって軽快な走りを見せている。
小学生くらいに見える。姉弟かな。友達かな。
僕と並ぶようにして、楽しそうに何か叫んでる。応援はありがたい。けど前を見て走ってくれよ。塗装がピカピカの新車だろ。電柱にぶつかったらどうする。それとも君が僕の棒のような脚にぶつかるのか? ケガはしないようにしてくれ。
いよいよ橋の登り坂にさしかかる。ここがきつい。大会中、橋の歩道は通行禁止となっており下道を迂回せねばならない。ランナーだけが橋上の車道を走ることを許されていた。
愛車をブイブイ言わせ追いかけてきていた少年はブレーキをかけた。少女も足を止めて、大手を振ってくる。
横目で見てていた僕はさっと小さく片手をあげてこたえた。
君達の瞳に僕はどんなふうに映っているのだろう。バラバラになった大勢のなかの一人でしかなくとも。僕は行くぞ。
幼き日の僕だったかもしれない君たちよ。また会おう。ちょっとぐらいかっこつけてもいいよな。そうひとりでに別れを告げた。前を見つめなおす。
がむしゃらに進む。いやでもスピードは落ちるが確実に坂を上っていく。ここを過ぎればしばらく平坦な道路だ。
苦しいけれど普段は車だけが走ることを許された車道の真ん中を走るのは気持ちいい。キリトリ線をハサミで切ってゆくみたいに白線上をつたうのも。
僕はなんとか持ちこたえている。なんせこの後にもまだ越える山があるのだ。橋から山道へ入る茂った木影の呻き坂が。
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