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第16話
それからの事は、朧気にしか覚えていない。
虎牙が、スマホにデータがあるから下手なことはしないほうがいいとか、
僕のスマホを取り上げて虎牙のアドレスを入力してたらしいとか、
困った事になったけど、今はどうでもいい。
ただ、発情は治まった。
痛みと引き換えに。
青は、虚ろな表情で帰路を辿る。
涙も出ない。
誰にも会いたくない。
家にも帰りたくない。
なのに、足は自然と自宅へと向かう。
そこの角を曲がれば、というところでスマホが鳴る。
ぼんやりしていたため、何度かコールして止まったが、また再び着信を知らせる。
『虎牙』
!!!!
急いでスマホを操作しようとするが、手が震えて上手くいかない。
また着信は途切れた。
すぐに、短い音が鳴る。
『件名:明日
本文:17時30分
廃工場』
嗚呼。
これから僕は、僕でなくなる。
もう、誰にも知られてはいけない。
そう、誰にも……。
いつの間にか、たどり着いた家の前で、青は、深呼吸をして、玄関の戸を開けた。
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