プロローグ

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プロローグ

《ターンッ‼︎》 と、突き抜けるような快音と共に、一本の矢が的のど真中に突き刺さる。 《ワーッ‼︎》 という歓声と拍手が、場内に響き渡る。 ──弓矢を放ったのは、駿府(すんぷ)女子高等学校三年、今川美波(いまがわ・みなみ)である。 美波は、スラリとした長身に端整な顔立ちの美少女で、学業にも優れ、弓道の腕前もプロ級である。 この一本で、美波の優勝は確定した。 ──ここは京都御苑(きょうとぎょえん)内、弓道の特設会場。 本日、全国高等学校弓道大会女子の部の決勝が行われている。 美波は、高校一年の時から出場して、毎年優勝しているので、大会三連覇達成である。 東海地方出身の美波は、その弓道の腕前から、《海道一の弓取り(かいどういちのゆみとり)》と呼ばれていた。 ──かの戦国大名、今川義元(いまがわ・よしもと)も海道一の弓取りと呼ばれていたそうだが、この場合の海道は《東海道》、弓取りとは、《武士》という意味(義元の場合は大名)で、直訳すると、《東海道一の大名》という意味であり、義元が神レベルの弓矢の達人という意味ではない。 ━━大会終了後。 「今川美波さん、大会三連覇おめでとうございます。」 女性記者が、美波にマイクを向ける。 「有難うございます。」 美波が答える。 「三連覇を達成しましたが、次の目標や、やってみたい事などはありますか?」 女性記者は、美波を見た。 「そうですね…。」 美波は少し間を置いてから、 「京に上って、天下に号令を掛けようと思います。」 と微笑した。 会場が騒めき始める。 この会場が京都にあるので、既に京に来ているのだが、少し意味が違うようだ。 この意味については、後ほどご説明しよう…。 ──そして、この発言はテレビ中継で全国に流れた‼︎ ──時は20XX年、日本。 政治の中心が、京都から東京に移って400年以上。 未だ“一般的な”政治・文化の中心は、首都東京にある。 しかし、どういう訳か“女子高生”の政治・文化の中心は、東京ではなく京都にあった。 そしてまた何故か、学区の区分けの名称は、かつての戦国時代に使用されていた地名が使われていた。 東京都なら武蔵(むさし)、神奈川県なら相模(さがみ)と呼ばれている。 美波の住む静岡県は、駿府女子のある駿河(するが)と、浜松(はままつ)女子高等学校のある遠江(とおとおみ)とに、大きく二つに分かれている。 ──ちなみにこの時代、高等学校の共学は全て廃止され、女子高と男子高に完全に分かれている。 更に彼女達は、昭和や平成などの“通常”の元号ではなく、独自の元号を使用していて、今の元号は《太陽(たいよう)》で、本日は太陽3年4月15日である。 ──ここ京都には、女帝・眞衣(じょてい・まい)が君臨している。 眞衣は元カリスマ女子高生で、現在は卒業して帝(みかど)という役職に就いていて、OLという表の顔も持っている。 何か特別な事をしようとする時は必ず、眞衣から承認を得なければならない。 女子高生達にとっては、天皇に匹敵する程の権力を持っている。 彼女達は、眞衣の事を《朝廷(ちょうてい)》と呼んで崇(あが)めている。 もし眞衣と敵対することになると、《朝敵(ちょうてき)》と見なされてしまう。 更に、眞衣から《朝敵討伐令(ちょうてきとうばつれい)》を発令されてしまうと、全国の女子高生を敵に回す事になる。 絶対に、敵に回してはいけない相手であるが、眞衣は比較的大人しい性格なので、むやみやたらに朝敵討伐令を発令する事はない。 そして、もう一つ重要な役職に就いている者が、ここ京都にいる。 室町(むろまち)女学院高等部三年、足利小百合(あしかが・さゆり)である。 彼女は《将軍(しょうぐん)》という役職に就いていて、主に帝の補佐をしている。 将軍が行う政治の事を《幕府(ばくふ)》と呼び、小百合の学校の室町から、《室町幕府(むろまちばくふ)》と呼ばれている。 ──余談ではあるが、本来の朝廷と幕府は少し意味が違い、朝廷は公家政権で、幕府は武家政権である。 小百合は、肩までの茶髪のセミロングストレートが似合う美少女で、文武に優れており、将軍の名に恥じない女子高生である。 しかし今、その地位を脅かそうとする者が現れた。 ──今川美波である。 美波は、弓道の腕前で全国に名が知れている。 駿府女子のある駿河だけでなく、遠江地区など静岡全土を手中に収めている。 更に愛知県東部の三河(みかわ)地区まで、美波の支配下に置かれている。 今、ノリに乗っている女子高生だ。 その美波が、 『天下に号令を掛ける!!』 と言い出したのだ‼︎ これは、 “足利小百合に代わって将軍の座に就く” という事を意味する。 本格的な、“女子高戦国時代”が始まろうとしていた…。
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