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第0章 法術概論Ⅰ
・・・退屈だ。
最新の設備に最新の学術。まるで高級ホテルのコンベンションホールのような講義室。国内でも入学できればエリート確定と言われている法術学部。法術省のお膝元に位置する大学というのもあって法術省関連の人間が日々出入りしていて、同級生にも法術家系出身が溢れている。そんな大学に通っている私は一般家庭で育ったものの子供の頃からマナの感受性が強く、ソームから祝福も受けている。おかげで前述した同級生からは「法術家系でもないのに偉そうに」と称賛される毎日だ。別に偉ぶってなんかいないのだけれど。
将来は法術士官になりたいという目標から今は勉学に勤しむべきなのだが、これがどうにもできそうにない。私はどうしても座学というものが苦手でただ人の話を聞いているだけというのは子守唄のように瞼が重くなってくる。結論を言ってしまえば教壇に立ってテキストや教科書なんかに書いてある文章を口から出力している人間の話を聞き入るよりかはその教材を自分で読み込んでしまった方が効率的だ。私は義務教育という拘束期間の中でその効率的手段を見つけてしまったせいでクラスメイト達が前のめりになって授業を受けている理由が理解できなかった。中には教師を異性として熱い視線を送っていた人もいたのかな。ばかみたい。ただ、定期試験は私の心をくすぐるもので順位を付けられるのは嫌いでなかった。1位の時はもちろん嬉しいが、自分よりも成績が良い=強者がいるときは追いかけるのが楽しかった。この講義にも試験はある。一通り教科書は読んだが、ほとんどは知っている内容だった。小さい頃から父が私に教えていた知識だった。父か。私の実家。お母さん。フルゥの祝福。あの事件から私の人生に「法術」が深く関わってくることになった。
変わり果てた家を途切れそうな意識で見ていた。父とは違う男の人に抱きかかえられて。ああ、リビングの窓枠もひしゃげてそこらじゅうにガラスが散らばっている。あの庭から川沿いの道を見るのが好きだったのに。特に夕暮れ時なんかは大きな犬を連れたカップルや私と同じ年代の子達が追いかけっこをしていた。あの光景を見ていればその後の父との時間を忘れることができた。
―――もう大丈夫だよ。
その言葉を聞いたころには私の意識はふっと帳に落ちていた。
「・・・だてさん」
「赤館さん!」
隣の席の男子学生が私に声をかけた。講義室の窓から景色を見ていたら物思いにふけてしまっていたようだ。男子学生の顔を見たら、怪訝そうな顔をしている。私が何?と睨むと彼は前を見ろというジェスチャーをして私にメッセージを送っている。視線を前方に向けると先生がにこっと笑いながら(目は笑っていないな)、大丈夫かな?と私に呼びかけた。
「ええっと、君は赤館さんだね?僕の講義はつまらないかな?」
名簿を片手に困っているの怒っているのか分からない表情。
「いえ、そんなことはありません!」
「それならいいんだけど、それじゃあ、一体何と交信していたのかな?」
先生は少し嫌味交じりに私に聞いた。
「既に私は祝福を受けていあすが、ソームとは会話していません。校則で禁止されていますし。」
「(そうだよ。私は亜希にお話ししてないよ。)」
ほら、フルゥも私の味方してる。
私は何一つ間違った返答はしてないはず。でも、講義室内からくすくすと聞こえ始めている。ああ、やってしまった。先生の冗談だ、これは。先生の気遣いに気遣いに気付いた私は顔を真っ赤にして先生に謝罪した。そして、先生に私に何を質問していたのか質問した。
「ふむ、それでは全生徒から優しいと言われ、毎回楽しい講義をしている人気者の僕が少しイジワルをしよう。なぜ、今日ここで赤館さん含むみんなが法術概論の講義を聞いているのか説明をしてもらえるかな?」
私がはい、と答えると先生はせっかくなので前で説明してみようと私を教壇まで連行した。ふーん、やってやるわ。ぴっと姿勢を正して教壇の少し後ろで胸を張った。先生は最前列の一番端っこに座ってさっきのスマイルをしながら、イクシィーとスアーの接近からよろしくねと言い放った。それって法術の歴史最初からってことじゃん。
「(頑張れ!亜希はお勉強得意!!)」
ありがと。フルゥ。
私はふうっと呼吸を整え、頭の中のアーカイブを整理して話始めた。
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