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質量を増した雄芯を喉の奥で締め上げるのに呼応するかのように、節の高い指がハーヴィーの髪を撫でる。
「ハー…ヴィー…」
掠れた低音に名前を呼ばれて視線を上げれば、凶悪なまでに鍛え上げられた腹筋の向こうにロイクの顔が見えた。堪えるように僅かに寄せられた眉根と、薄く開いた唇が放つ色気にあてられそうだった。
喉の奥まで飲み込んでも口腔に入りきらない雄芯を舐るたびに、背筋を得体の知れない痺れが這い上がるのを自覚する。ロイクを煽るはずが、ハーヴィー自身が疼くような快感にじわじわと侵されていく。
やがて吐き出された熱を喉の奥で受け止めて、ハーヴィーはようやく顔をあげた。含み切れずに唇の端から滴る白濁を手の甲で拭っていれば、些か困ったようなロイクの声が聞こえてくる。
「まったく…君は、どうしてそう僕を誘惑するのが上手なのかな?」
「誘惑してはいけないのか?」
「まさか。大歓迎だよハーヴィー。ただ…」
途中で言葉を途切れさせたロイクを訝る間もなく、ハーヴィーはあっという間に寝台の上に磔にされていた。情欲に濡れた碧い瞳が見下ろしてくる。
「僕にこうされる覚悟は、出来ているんだろうね?」
「出来ていなかったら煽る筈がないだろう」
「ふふっ。君のそういう男らしいところが僕は大好きだよ」
言いながら倒れ込んでくるロイクをハーヴィーは両手で受け止めた。首筋を這う舌先の感触に、ハーヴィーが僅かに首を竦める。
「ロイ……くすぐったい…」
「すぐに気持ち良いって言わせてあげる」
きつく肌を吸い上げられて、ちくりと針を刺すような痛みに眉根を寄せる。跡が残ると分かってはいても、ハーヴィーはロイクを止めなかった。制止が掛からないのをいいことに、そこかしこに唇を這わせるロイクに苦笑が漏れる。
「いい加減にしておけ。私に印は必要ない」
「僕が、安心したいだけだよ」
再びの肌を刺すような感覚に、ハーヴィーは束の間思案する。このままロイクの好きにさせておけば、躰中が朱い斑点模様になりかねない。
――どう言えば諦めるだろうか…。
言い出したら他人の意志など構いもしない男である。安心したいというからには安心させてやれば納得するのだろうかと、見るともなく天井を見上げていたハーヴィーの耳に、本人の可笑しそうな声が聞こえてくる。
「とめないの?」
「とめたらやめるのか?」
「君が本気で嫌がることをするつもりはないよ」
そういえば、以前もロイクはそんな事を言っていた気がする。その時は口先ばかりだと、どうせ他人の話など聞くことはないと、そうハーヴィーは思っていたが。
「嫌だという訳ではないが…、ゲストの目につくような場所は控えてくれないか。それに…」
「それに?」
「これでもセルフケアくらいはする。ジムにだって行くし、泳ぐことだってあるんだ。支障が出るのは…困る…」
ロイクやフレデリックに比べれば細身のハーヴィーではあるが、けして脆弱な躰つきをしている訳ではない。そうハーヴィーが告げれば、耳元で微かな笑い声が聞こえた。
「なにが可笑しい」
「いや、君が可愛くて」
「それは…あなたに比べればひ弱に見えるかもしれないし…事実でもあるが…、私だってそれくらいは…」
「そうじゃないよ、ハーヴィー。それに、そんなに気後れすることもないだろう? 君は確かに素敵な躰をしているしね」
するりと動いた掌がハーヴィーの脇腹を撫でていく。
「…っ」
次いでゆっくりと胸元に滑り落ちた唇が、愛おしそうに言葉を紡ぎ出す。
「程よい胸の厚みも、美しい腰骨のラインも、僕はとても気に入っているよ?」
「っ…ロイ」
「この素晴らしい躰を維持するためなら、我慢も仕方がないね」
躰ではなく、今度は唇に落とされた口づけに、ハーヴィーは微かに眉根を寄せた。啄むように繰り返される口づけを受けながら、ロイクの大きな背中へと腕を伸ばす。触れあったままの唇で名前を呼べば、ロイクの目元がふわりと緩んだ気がした。
ぴちゃりと水音が響くたびに、嬌声が部屋に響く。敷布の海を叩くハーヴィーの髪が、ぱさぱさと乾いた音をたてた。
「ぁっ、…ゃ、も…っいい…から…っ」
泣いているようにも聞こえる声が余計にロイクを煽った。綻びはじめた蕾に舌先をねじ込む。
「ぃや…ぁっ、舌いれな…っで」
嫌だと言いながらも律儀に腰を上げたままのハーヴィーがロイクには愛おしく、そして頗るそそられる。たとえ本人に煽っている自覚がないとしても。
羞恥か、はたまた快楽によってか震えの止まらないハーヴィーの腰を支えてやりながら、ロイクは丁寧にすぎるほど念入りに肉の蕾をほぐしていった。
「ぃゃ、…もっ、……いれて…良い、から…」
ハーヴィーのすすり泣く声に、ようやくロイクは顔をあげた。ぐっしょりと濡れた卑猥な蕾を満足げに見遣る。
「可愛い僕のハーヴィー。どうして欲しいのか、君の言葉でちゃんと言ってごらん?」
ぺしゃりと崩れ落ちたハーヴィーを、ロイクの大きな躰が背中から抱き締めた。
思いのほか熱いロイクの躰の下でハーヴィーは僅かに身じろいだ。開きかけた唇を噛み締める。が、ハーヴィーのそんな行動はとうにロイクに見抜かれていたのである。
「ハーヴィー」
節の高い指に優しく唇を撫でられて、ハーヴィーはおずおずと口を開いた。
「……あなたが…欲しい…」
吐息にさえ掻き消されてしまいそうなほど小さな声が囁くのを、ロイクの耳はしっかりと捉えていた。
「良い子だね。素直に言えたご褒美をあげる」
丹念にほぐされた蕾を巨大な熱が割り開く。ご褒美と言ったロイクの言葉を証明するように、ハーヴィーの口からは喜悦に塗れた嬌声が零れ落ちた。
「ああ…っ、ぁッ、熱…ぃっ」
「熱いだけ?」
「熱く…て、……気持ち、ぃ…」
大きな躰に圧し掛かられてろくに身動きすらできず、ハーヴィーはただ快楽だけを与えられる。それを嫌だとは思わなかった。それどころか、熱い吐息とともにもたらされるロイクの言葉に支配されるのが気持ち良いとさえ思える。
熱の塊に奥深くを穿たれるたびにハーヴィーの中は収縮し、ロイクを求めた。
「ぁっ、ロイ…ッ、もっとぉ…!」
「君のお願いは聞いてあげたいところだけれど、これ以上は駄目だよ。……まだ、ね」
そう耳元に囁きながら、ロイクは大きな掌でハーヴィーの目蓋を塞いだ。暗闇に閉ざされた視界の中で、低い声が鼓膜を揺らす。
「あまり僕を煽らないで。手加減できなくなるだろう?」
柔らかな声で吹き込まれた刹那、ハーヴィーの全身を痺れのような何かが駆け抜けた気がした。
「んッ、ぅ、…あ、あっ、気持ち良い…ッ」
「まったく…、おねだりが上手すぎるのも考えものだね」
忍耐力がいくらあっても足りないと嘯いてロイクは笑った。
「ねぇハーヴィー、君の中が熱くて溶けてしまいそうだよ」
激しさはなかった。けれども奥深くまで入り込んだロイクの太い楔が抽送のたびにハーヴィーの弱い部分を擦りあげる。
「わかるかい? 君の中のいちばん奥が、キスするたびに行かないでって僕に吸いついてくる」
「ぅ…ん、……いかなぃ…で…。俺の中に…いて…?」
「…っ」
顔を半分覆われながらも自らロイクの腕へと頬を擦り寄せるハーヴィーは、口調が昔のそれに戻っている事にさえ気づかなかった。
「君は、なんて性質の悪い子猫ちゃんなんだろうねぇ…」
ロイクの口から零れ落ちた声が、なんとも情けなく響く。今すぐにでもハーヴィーの奥の奥にある硬い襞を抉じ開けてしまいたい衝動に駆られた。
――素直すぎるのも考えものだなぁ…。
うっかりしていたらすぐにでもハーヴィーを壊してしまいそうで、ロイクは衝動を抑えることに腐心する羽目になった。
――壊さないのは難しい…。
もはや難題を押し付けられた気分に陥るロイクではあったが、嘆いている時間はなかった。
動きを止めてしまったロイクの下でハーヴィーが身じろぐ。雄芯を食んだ媚肉が収縮して、ロイクは息を呑んだ。
「…はや、く…、もっ、我慢でき…なぃ」
生き物のように屹立に絡みついたハーヴィーの襞が、主の願いを叶えようとするかのように自らを貫いたロイクの雄芯を奥へと誘う。搾り取るようなその動きにロイクは舌打ちを鳴らした。
「我慢できないのは……こっちだ…っ!」
「アッ! ああッ! ロ…イッ、深…っい」
「望み通りっ、君の奥の奥まで僕のものにしてあげる」
ハーヴィーの背中を、ロイクの大きな躰が圧し潰す。途端にこれまでよりも深く侵入を果たした雄芯に、ハーヴィーのひときわ高い声が部屋の空気を震わせる。腕の中で硬直する躰をロイクは愛しそうに抱き締めた。
「あぁハーヴィー…気持ちが良いよ…。君の襞が僕を離さないって抱き締めて…っ、ちぎられてしまいそうだ…!」
「あッ…ン、ロイッ…良いっ」
寝台の軋む音と狂おしいほど艶を纏ったハーヴィーの嬌声がロイクを煽った。狭い襞を屹立で擦りあげるたびに掌を濡らす雫に興奮する。
――駄目だ。これ以上は…。
大きな掌は、ハーヴィーの目元を滑り落ちた。
「っふ、…ぅ…っ!?」
「ごめんねハーヴィー。少し、黙っていて? でないと僕は君を壊してしまう…」
「ンうッ、うぅ…っ、んぅ!」
ロイクの動きに呼応するように、大きな手に塞がれたハーヴィーの唇からくぐもった嬌声が漏れる。それはそれで欲情を煽られて、ロイクが項垂れた事は言うまでもない。
「少し…っ、早いけど……出すよっ…?」
「ぅっ、…ぅぅ」
震えるハーヴィーを逞しい腕が抱き締めた。その刹那、後孔の奥深くで熱い欲が爆ぜる。
「ふっ、うッ、んん…ッ」
「ッ……愛してる。……ハー…ヴィー…」
注がれる熱を奥底に感じながら、ハーヴィーは躰から力が抜けていくのを感じた。重なり合ったままのロイクの呼吸が次第に整っていく。
「ぅぅ…」
いつまでも退けられない掌に不満の声を漏らしたつもりが、ゆっくりと後孔の熱が抜き出されていく。
「苦しかったかい?」
「苦しくは…ないが…」
苦しくないと言いながらも何か言いたそうにしているハーヴィーを、ロイクは覗き込んだ。
「うん?」
「っ…あなたは…狡い…」
汗で湿ってしまった敷布に顔を埋めたままのハーヴィーが小さく呟く。
「私だって…あなたを抱き締めたかった…」
「…っ」
「顔も……見たかった…」
恨みごとのように呟かれる言葉はだが、ロイクの心臓をあっさりと抉り取る。
寝台の軋みと同時に軽くなった背中に、身を捩ったハーヴィーは両手で顔を隠したロイクを発見することとなった。
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