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絶対に負けられないのだ。
あの優しい人が、本来なら「戦い」と言うもので深い傷を負った優しい人が、相手が人間じゃないからと自分を誤魔化しながら、この町のために戦っているんだから。
エドガーの右手くらいで、彼がここまで茨の道を歩いたことを否定するわけにはいかない。
「……はは!」
痛みが強すぎて、笑ってしまう。右手からショットガンが落ちた。
「うるさいんだよ! せめて黙っててくれ!」
エドガーの腕を噛んでいるということは、サプロの口には、今それくらいの隙間があると言うことだ。
銃口を口の隙間にねじ込んだ。がっちりと食い込んだ歯はすぐに抜けない。
『何を』
引き金を引いた。勢いでサプロが後ろにのけぞる。腕を引っ張られたエドガーも一緒だ。
喉にある声帯スピーカーを破壊した。戦闘機能はともかく、もう喋ることはできない。案の定、犬の喉からは、ピー! ガガガ! という、意思のある雑音しか発されなかった。
引っ張られたのについて行った都合、エドガーの方がマウントを取っている。ちら、とジーンを振り返ると、真っ青になって棒立ちになっていた。サプロも怒り狂った様にガガガ! ザザ! とジーンを見て何か言っている。彼の耳には入っていないか、理解していても身体が動かないかのどっちかだ。かわいそうなジーン。お前だって優しい人だ。オタクをなじられるのが耐えられなかったけど、本当は人間を見捨てたくないんだろう。
「悪いな、サプロ。怖い思いをさせて。お叱りは動物愛護団体から受けるよ」
エドガーはサプロにウィンクしながら、ブーツに仕込んでいたナイフを抜き取った。犬の歯は、なおもエドガーの腕に食い込み続けている。そろそろ骨が砕けそうだ。
胸部と腕の付け根のプレートの間に隙間がある。エドガーはそこにナイフを突っ込んで、てこの原理で無理矢理引きはがす、剥き出しになった基板に、彼は祈るようにナイフを突き刺した。
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