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数週間前のことだった。この町で一番大きな工場、おもちゃメーカーの工場で、どういう経緯かはわからないが、オートメーションの機械を仕切っていた中枢AIが暴走した。あっと言う間に、作られるものはおもちゃの姿をした兵器になった。サプロのような、動物の形をしたもの、今まで何度も語られたようなおもちゃの兵隊。そう言うものが町を破壊した。
ライアン・フリントは、同じ町の自動車工場で働いていた退役軍人だった。戦場で人を撃って、刺して、殴って、何もかもが嫌になって退役した。
だから、戦いのノウハウは知っているし、人間に銃を向けなくて良いなら、と、有志と共に立ち上がった。今はレジスタンスのリーダーだ。エドガーは、そんなライアンのカリスマ性とでも言うのか、あるいは人を傷つけたくないという優しいところか、もしくは、無生物であっても壊した後に痛ましい顔をしたところか、いずれかに惹かれて行動を共にするようになった。
仮眠を取っている間に、戦場の夢を見てうなされていることも知っている。飛び起きては、自分の身体に血が付いていないか、目の前に自分が害した誰かの身体が転がってやしないかと慌てているのも、エドガーは知っている。
抵抗を続けている間に、持ち帰ったおもちゃの兵隊に埋め込まれていたAIから、中枢AIがアメリカ全土を、この町と同じように、機械の支配下に置こうとしていることがわかった。出来の悪いSF映画のようだったけど、現にこの町が、機械に支配されようとしていたから、レジスタンスは誰も笑わなかった。けれど、皆心のどこかでは高をくくっていた。その気配を感じ取ったメカニックのジーンはおずおずと、
「僕は、あり得なくもない話だと思うな」
と言って他の仲間に小突かれていた。そんな馬鹿な。機械如きに。
「いや、そう言う油断から負けがこむんだ」
ライアンは信じた。「ジーン、他に工場の情報があればサルベージしてまとめてくれ」
「お安い御用さ」
そして、ジーンがまとめた情報を元に、ライアンたちは工場に突入した。
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