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  愛菜ちゃんと慎吾君の結婚式は、小規模でアットホームな雰囲気だった。  参列した人達皆が、今日のこの日を心から喜び、二人を祝福しているのが伝わってきて、見ているだけで幸せな気持ちになった。    式では、離婚したと聞いていた愛菜ちゃんのお父さんが号泣していたのが特に印象的だった。会場にいた誰よりも、花嫁以上にお父さんが泣いていて、その姿を見て私ももらい泣きしてしまった。  慎吾君の家族と愛菜ちゃんの弟妹達がとても仲が良さそうで、新郎新婦だけでなく、ふたつの家族がひとつの家族になった、そんな光景を眺めて羨ましく思った。    愛菜ちゃんのご両親の姿を自分の親と重ねて、二人の姿を自分の未来に重ねてみた。  まだ現実的ではないけれど、いつか自分にもこんな日が来るといいなと、そう思えた。  愛菜ちゃんが妊婦なので、二次会はなく披露宴でお開きになる。  一人参加の私は会場を出るとすぐにクロークから荷物を受け取り、ロビーのソファで帰り支度を始めた。  日村さんから連絡がないかを確認する為にスマホの画面を開いていると、すぐ近くから声がかかった。 「十和さん。お疲れ様です」 「黒木君」  高校の同級生の集団から抜け出して、わざわざ声を掛けに来てくれたようだ。  式の最中、彼は同級生達といたから話す機会が殆どなかった。 「ピアノ、素敵でした」 「ありがとう、緊張しちゃった。黒木君達のスピーチも感動したよ」 「……あれは忘れて下さい」  嫌そうな顔をしつつも、照れているのかほんのり耳が赤い。  新郎側の友人代表スピーチは、黒木君ともう一人の高校の同級生だった。  殆どもう一人の男性が話していたけれど、最後に素っ気なく述べられた黒木君の、短いけれど二人への友情溢れる祝福のメッセージに目が潤んだ。 「桐谷先生の動画、撮ったのってもしかして、十和さん?」 「え、うん」  突然訊かれて、反射的に頷く。 「だと思った」  私の返事を聞いた黒木君は、彼にしては珍しく嬉しそうに笑った。  なぜ分かったのか不思議だったけれど、美穂ちゃんに言われた事を思い出してその理由を聞くのを躊躇う。 「先生、お元気ですか?」 「うん、元気そうだったよ」  私の返事に、黒木君はあれっという顔をする。 「会ってますよね」 「桐谷先生と? うん、あの動画撮った時に会ったけど」 「それって……」   「十和ちゃんっ!!」  名前を呼ばれて声の方に視線を向けると、黒木君の肩越しに美穂ちゃんが手を振っているのが見えた。 「あ、ごめんね。呼ばれてるみたい」 「はい、また……」 「うん、また皆で会おうね」  彼の何か聞きたそうな表情も気になったけれど、また今度会った時に聞けばいいかと、黒木君とはこの場で別れた。 「ごめん、誰かと話してた?」  美穂ちゃんの傍に行くとすぐに、彼女がごめんと顔の前に片手を立てる。 「うん、でも大丈夫」 「あのね、余興のメンバーでこの後少しだけどこかで二次会、っていうか打ち上げしていくんだけど良かったら十和ちゃんも来ない?」 「あ、せっかくだけど、ごめんなさい。お迎えが来てくれるの」 「そっかー、残念。じゃあまた今度飲み行こうね。声かけるから」 「うん。色々、ありがとう」 「こちらこそ。おかげで余興も大成功!」 「愛菜ちゃん、泣いてたね」 「ね! 桐谷先生映った時、慎吾君もちょっと泣いてたよ。メッセージ貰えて本当に良かった。ありがとう、十和ちゃん」 「うん」  話していると、入口付近できょろきょろ中を見渡している人の姿に気が付いた。背が高いから目立つ。  駐車場で待っているかと思っていたのに、わざわざロビーまで来てくれたみたいだ。   「ごめんね、お迎え来たみたい。じゃあ、また」 「うん、バイバイ」  美穂ちゃんと手を振って別れ、彼の元に駆け寄った。
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