風雲児

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 帰宅すると既にお風呂上がりのあまねくんの姿。彼は早めに解散したのだろう。 「ただいま。あまねくん、早いね」 「おかえり。先輩とご飯に行ったんだけど、奥さんお腹大きいんだったら早く帰って家にいてやれって言われてさ」  あまねくんは、まだ少し濡れた頭をフェイスタオルで拭きながらへらっと笑う。 「結婚式の二次会で会った先輩?」 「そうそう。戸塚さんね。俺が新人の時から面倒みてくれてた先輩なんだ」  個人名を出されても、二次会には仕事関係の先輩や後輩が全員で8名程いたため、どの人かわからない。  あまねくんが先生と呼んでいた人がおそらく経営者の税理士さん。それからあと2人くらいは40代に見えた。残りの5人くらいはうんと若い子2人に私と同じか少し上くらいの人が3人か4人。  しっかりとした数は覚えていないけれど、やはりあまねくんの先輩といえばこの中でも複数人いる。 「どの人かわかんないなぁ。税理士さんってあんなにいっぱいいるんだね」 「んーあの中には、資格取ってない人もいるから税理士ばっかりじゃないよ」 「そうなんだ。やっぱり難しいんだね。受けてはいるんでしょ?」 「うん。働きながら取るのって大変だと思うよ。つくづく大学で取っておいてよかったって思うよ」 「あまねくん、頭いいからね。その戸塚さんは税理士さん?」  私は、あまねくんと話をしながら上着を脱いで玄関からの導線にあるクローゼットを開ける。中からハンガーを取り出して上着をかけると、そっと扉を閉めた。 「そうだよ。俺が新人の時に6年目だっていってたから、んー……まどかさんの1個上かな?」  リビングのドアを開けっ放しにしていたため、あまねくんの声はよく聞こえる。私はリビングに戻ると、ドアを閉めて手を洗った。 「じゃあ、34歳かぁ……。うーん、私と同じくらいに見えた人、3人くらいいたからなぁ」 「あー、多分ね1人は若く見える40代でもう1人は老けて見える俺の後輩だよ」  あまねくんはケタケタ笑いながらそう言った。無邪気な顔を見て、「えー!? 後輩っぽい子ももっと先輩っぽい人もいるじゃん」と言いながら私も一緒になって笑った。  手を拭いて、急須に緑茶の茶葉を入れる。 「多分、まどかさんが考えてる人達、年齢全然違うよ」 「そんなこと言われると気になるんだけど」 「俺も初めて聞いた時ビビったもんね。でも、戸塚さんは年相応。いや、若く見えるかな? でも落ち着いてるからなぁ……。うーん……」 「その戸塚さんとは仲いいの?」 「うん。結婚する前はお互い独身だし、しょっちゅう一緒に飯食いに行ってたよ。1番話が合うし、新人の時の俺を知ってるから愚痴も言いやすいんだ」 「じゃあ、いい相談相手なんだね。あまねくん、ハイジさんしかお友達がいないのかと思ったよ」 「まどかさん、失礼。俺だって友達くらいいるよ。二次会の後に一緒に飲みに行ったのだって大学の頃の友達だし」 「そうだっけか? でも、あまねくんがあんまり遊びに行くって聞かないね。結婚する前からだけど」 「そりゃ、だってまどかさんと出会えたんだよ? まどかさんと会える時間を優先するに決まってるじゃん」 「ふふ。たまには出掛けて来てもいいのに。男同士の方が盛り上がる話もあるでしょうに」  私は、熱いお茶を入れた湯飲みを持って、ソファー前のテーブルに置いた。あまねくんは、ありがとうと小さく呟いて姿勢を直した。そのまま彼は、「いいんだよ。俺、毎日まどかさんと一緒にいたいもん」と言った。 「あんまり私ばっかりになると友達いなくなっちゃうよ」 「まどかさんだって茉紀さんくらいとしか出掛けないじゃん」 「うん。私は茉紀くらいしか友達がいないからね」  私がさらっとそう言えば、あまねくんは目をパチパチと瞬かせると、顔をくしゃっとさせてははっと笑った。 「じゃあ、まどかさんの時間は俺がいっぱいもらえるからいいや。まあ、俺の場合結婚してる友達も多いから、この前の二次会、三次会みたいに何かイベントでもないと集まらなくなったんだよね。戸塚さんは嫌でも毎日仕事で会うし」 「ああ……それもそうか。でも、あまねくんが普段からお世話になってる人なら私も挨拶したいしさ、外に食事に行くのが気が引けるなら今度うちに呼んだら?」  私が隣に腰かけて言うと、「まどかさん、家に人呼ぶの平気なの?」と首を傾げた。 「あんまり考えたことなかったけど、この前大崎さんちに呼ばれた時、楽しかったなぁって思って。あんなに大きなホームパーティーはできないけど、あまねくんの仲良い先輩くらいなら大丈夫だよ」 「確かに楽しかったね。まどかさんがそう言うなら、戸塚さんに声かけてみようかな。一人暮らしでコンビニ弁当ばっかりだって言ってたし」 「そりゃ、余計に心配だわ。たまにはお客さんがくるのも悪くないかもね」  あまねくんの先輩と思われる数人の男性の顔を思い出しながら、私は言った。
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