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散々飲んで騒いだ後、2人はうとうととテーブルに伏せってしまった。
あーあ、だから飲み過ぎだって言ったのに……。まあ、戸塚さんも明日休みだって言ってたからいいか。
その内に寝息を立て始めたため、私はテーブルの上を片付け、暖房はそのままにして2人の背中にブランケットをかけた。
体勢がきつくなれば自然と目を覚ますだろう。私1人ではどう頑張ってもソファーかベッドには運べない。2人仲良くテーブルで寝てもらおう。
客人を招いておいてこれでいいのか不明だけれど、起きないものは仕方がない。私はこっそりシャワーを浴びさせてもらい、1人ゆっくりとベッドで眠った。
翌朝、戸塚さんが起きる前には起きて化粧をしようと4時に目覚ましを合わせておいた。しかしダイニングへ行くと、テーブルに伏せって眠っているのはあまねくんだけ。
うわ……一晩中テーブルの上で寝てるんだ……。腕とか痺れてそう。
戸塚さんの姿はなく、椅子の上には綺麗に畳まれたブランケット。そして、テーブルの上に手帳を破ったであろうメモ用紙。
〔眠ってしまったようで申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました。
とても楽しく過ごさせていただきました。ありがとうございます。これ以上の長居は更なるご迷惑となりますので帰らせていただきます。
また改めて、お詫びとお礼に伺います。
戸塚政宗〕
……律儀な人だな。それより戸塚さん、名前政宗って言うんだ……強そう。
そんなことを思いながら、あまねくんの肩を持って揺さぶる。
「あまねくん、起きて。こんなところでいつまでも寝てたら体痛くなるよ」
「……ん……」
微かに声を漏らすだけで、起きる様子はない。一度寝たら起きないのはいつものこと。だからといってさすがにこれ以上テーブルで寝かせておくわけにはいかない。
腕の上に乗せられている頭を掴んで上に上げてみる。
お、重い……。人の頭ってボーリングの球くらいの重さがあるっていうしな……。
それでもなんとか後ろに引くと、体ごと背もたれにドサッと倒れこんで首が後屈する。グラッと頭が落ちてきて、私はひぃっと小さく声を漏らした。
まるでホラーだ。それでも彼は起きずに口を半開きにして眠っている。
今攻撃されたら簡単にやられてしまうな。
そんな考えさえも過る。更に揺するが、全く起きない。あまねくんの腕を引っ張ってみると、バランスを崩してドタンッと大きな音を立てて椅子から落っこちた。
「あ、あまねくん……ごめん……」
咄嗟にお腹の赤ちゃんを庇って、あまねくんを避けてしまった。恐らく肩をフローリングに強打した彼。それでもすやすやと眠っている。
「う、うそでしょ……。これで起きないとか……おーい……」
お酒がきいているのか、いつも以上に目覚めが悪い。いや、目覚めが悪いというか、なんとかいうか……。
私は呆れながらもせめて横になって寝てもらおうと、あまねくんの両脇を持ってリビングまで引きずっていった。
あまねくんの体を横にゴロゴロと転がして体の下に毛布を敷いた。体の上からブランケットをかけてとりあえず一段落。
「ふう……仕方のないパパだね」
お腹をさすって言うが、赤ちゃんも眠っているのか動かない。
まったく……皆揃って。無駄に早起きをしてしまった私は、もう少し眠ろうとベッドに戻った。
戸塚さんには逆に気を遣わせてしまったかもしれない。目が覚めた時、申し訳なく思っただろうななんて考えるが、眠ってしまう程楽しんでもらえたのなら今回の食事会は成功と言えよう。
私は、口角を上げて二度寝した。
次に目覚めると、私のすぐ隣にあまねくんがいてびくりと体を震わせた。
「っ……びっくりした」
あまねくんのことだからまだリビングで眠っていると思ってたのに。ベッドに戻ってきたことにも気付かなかった。こりゃ、あまねくんのこと言えないなぁと、彼の髪をそっと撫でた。
すると瞼をピクピクと動かしてうっすら目を開ける彼。
あ……起きた。
「おはよう……まどかさん」
「おはよう。二日酔い大丈夫?」
「うん。それは大丈夫。でも、何か体中がすげぇ痛い……」
ぎくり。それはきっと私が椅子から落としたから……。
「て、テーブルで伏せって寝てたからね……」
「うん。でも気付いたらリビングで寝てた。もしかして戸塚さんかなぁ?」
「私だよ……」
「え!? まどかさん!? え……どうやって……」
「引きずって……」
「えぇ!? 何してんの……重かったでしょ? こんなに体格差あるのに」
「うん、まあ……。でも、いつまでもテーブルの上で寝てちゃ体が大変だと思って」
「ごめん。全然気付かなかった。赤ちゃん大丈夫だった? 心配かけちゃったね」
「大丈夫だよ。私も引きずっちゃったし」
私がそう言えば、あまねくんはクスクスと笑って「それはいいよ。それより戸塚さん、帰っちゃったんだね」と言った。
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