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茉紀がボロボロと涙を流す中、その様子に気付いた光輝。光輝は茉紀に似た切れ長の目を大きくさせて、茉紀の元に駆け寄った。
「ママ、なんで泣いてるの? いたいの?」
座り込んでいる茉紀の頭をぽんぽんと叩きながら心配そうに顔を覗き込む光輝。
「ママは、君のことが心配だったんだよ。車がすぐ近くにいたでしょ? おじさんが助けなかったら轢かれて大怪我をしたかもしれないよ」
そっと近付いて光輝の隣に屈んだ戸塚さんは、光輝に優しい声色でそう言った。
「う、うん……でも、おれなんともないよ!」
「じゃあ誰も助けてくれなかったらどうしたの? 君は……名前はなんていうの?」
「……こうき」
「こうきくんは、キバレッドになるんでしょ? キバレッドは皆を助けなきゃいけないんだよ。ママが助けにきたらママも妹も怪我しちゃったかもしれない」
「……うん」
「危ない目に遭ったらこうやってママが心配で泣いちゃうんだよ」
「……おれのせい?」
「男の子は、女の子を守んなきゃいけないね。こうきくんは男の子だからママのことも妹のことも泣かせたらだめだよ」
「……うん」
光輝は目に涙をいっぱい浮かべて力強く頷いた。そんな光輝の頭を、大きな手で優しく撫でる戸塚さん。
「道路に出るときはどうするんだっけ?」
「みぎよし、ひだりよしする」
「そうだね。車がきてないのを確認してからじゃないと出ちゃいけないよ」
「うん……」
「じゃあ、ママに心配かけてごめんなさいしようか」
戸塚さんがふっと笑うと、光輝はもう一度頷き、すぐに茉紀の方を振り返った。そのまま茉紀の首に腕を回し「ママごめんね」と肩に目元を押し付けて謝った。
茉紀は抱いていた麗夢を道路に立たせ、光輝を力一杯抱きしめた。頬擦りをし、「ちゃんと気を付けないとだめだよ」と言った。
それから茉紀は戸塚さんに視線を移し、「本当にありがとうございました。お怪我はありませんか?」と心配そうに瞳を揺らした。
「ああ、大丈夫です! 体が丈夫なのが取り柄ですから!」
戸塚さんは白い歯を覗かせて、にかっと笑って見せる。とても元気そうだけれど、頭を打ってなければいいが……。
一応、病院に行くように言っておこう。そう思っていると、道路の上をちょこちょこ歩く麗夢が両手を高く伸ばしながらあまねくんに近寄った。
それに気付いたあまねくんは、にっこりと笑い、麗夢を抱きかかえた。
「あー。だぁ!」
あまねくんの腕の中できゃっきゃと嬉しそうな麗夢。
私が抱っこした時にはすぐに泣き出しそうだったじゃないか!
それを目で訴えるかのように茉紀に目を向けた。彼女は袖で涙を拭って苦笑すると「麗夢は男の人好きだだよ」と言った。
「麗夢ちゃんは美人さんだねぇ」
あまねくんがそう言いながら腕を揺らすと「きゃー! いー」と喜んでいる。
「1歳半でもうイケメンの判断ができるとは……恐ろしいね」
私が小声で言うと「面食いに育ったらどうすんの。やめてよね」と茉紀が顔をしかめた。
すっかり茉紀も泣き止み、ゆっくりと立ち上がる。茉紀の足にしがみついていた光輝は、羨ましそうに麗夢を見ていた。
おそらく麗夢を抱っこすることが多くなり、体が大きくなってきた光輝を茉紀が抱っこしてやることも減ったのだろう。
「光輝も抱っこしてもらう?」
私が光輝と視線を合わせ、あまねくんを指差す。あまねくんは目をぱちくりさせていたが、すぐにふっと笑うと「いいよー」と快諾した。
光輝は恥ずかしそうに茉紀の足に隠れるが、嫌だとは言わなかった。
しかし、麗夢を茉紀の腕に返そうとすると「あーーん!」と麗夢が泣き出した。
「ええっ!? 茉紀までも!?」
それには私も驚いて目を見張る。
「何で泣くかな……麗夢ちゃん、ママだよ?」
あまねくんが麗夢の顔を覗き込むと「あー」といいながら、胸元に顔を埋めた。
「あまねくん、1歳児にもモテるんだね……」
私が顔をひきつらせて言えば「いやいや、まどかさん言ってることがおかしいから」と複雑そうな表情を浮かべた。
あまねくんから離れたがらない麗夢のおかげで、あまねくんの手は空かない。
光輝は心なしか残念そうで、茉紀の足からひょっこりと顔を覗かせて眉を下げた。
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