それぞれの門出

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 その様子をおかしそうに笑いながら見ていた戸塚さんが「じゃあ、こうきくんはこっちにおいで」と言って腕を広げた。  光輝はぱあっと目を輝かせながら、すぐに戸塚さんの腕の中に飛び込んでいった。  おそらくキバレッドだと思っているからだ。  脇腹を抱えてそのまま光輝を高く上に上げる戸塚さん。あまねくんよりかは小さく見えたが、おそらく178cmくらいはあるだろう。それよりも更に高く上げられた景色に、光輝は目を丸くさせた。  そこからすとんと腕の上に座らせるようにした戸塚さん。光輝は「すっげぇ! もう一回やって!」とはしゃいでいる。  麗夢はすっかりあまねくんになつき、光輝は戸塚さんにアトラクションの如くたかいたかいやら肩車やらをせびっている。 「子供ってあんなになつくもん?」  私が2人の男性を指差して茉紀に尋ねる。 「うーん……。アイツが父親らしいことしなかったからね。あんまり抱っこしてもらったりっていう経験がないからパパと同じくらいの男が珍しいのかも」 「ほぉ……まあ楽しそうで何よりです」 「それより悪いね、お客さんにまであんな……」  茉紀も戸塚さんに視線を向けて、申し訳なさそうにしていた。 「まあ、戸塚さんもあまねくんも楽しそうだからいいんじゃない? 抱っこしてくれるって言い出したのは戸塚さんだし」 「あまねの先輩だっていうからもっとガキっぽいの想像してたけど、しっかり先輩気質だねぇ」  茉紀はははっと笑いながら楽しそうにしている光輝を見ている。 「うちらの1個上らしいよ。臣くんと同い年なのによっぽと大人に見えるよ」 「雅臣が子供っぽかっただけじゃない?」  ごもっともな意見に返す言葉もございません。 「まさむね! キバレンジャーみようよ! あっちでみれるよ!」  光輝の大声が聞こえる。肩車されている光輝は足をバタバタとさせてうちの家を差していた。  おそらくリビングで見ていた動画のことだろう。  そしていつの間にか戸塚さんを呼び捨てにしている。光輝のヒーローじゃなかったのか。 「あいつ……」  顔をしかめた茉紀はずかずかと光輝に向かっていき「いい加減にしなさいよ! あんまり迷惑かけたらダメでしょ!」といつもの勢いで叱った。  先程まで泣いていた茉紀を見て、しおらしい母親だとでも思っていたのか、茉紀の気迫に驚いたのは光輝だけではない。戸塚さんもおおっと体を仰け反らして、目を瞬かせていた。 「茉紀さん、急いでます?」  その気迫に屈せず声をかけたのはあまねくん。酒癖の悪い茉紀にすっかり慣れてしまっているあまねくんは、麗夢を抱えながらあっけらかんとした様子でそう尋ねた。 「え? や、別に急いではないけど……。この子っち一緒だからお迎えもないし」 「じゃあ、もうちょっと遊んでったらいいじゃないですか。重要なお話はもう終わったんでしょ?」 「ああ、うん。でも……」  茉紀の方が狼狽している。あまねくんが抱えている麗夢を指差し、「こっちも離してくれそうにないし」と言って笑った。  あまねくんの一言により、戸塚さんも茉紀も夕飯をうちで食べていくことになった。
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