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麗夢を抱えて微笑むあまねくん。しかしふと表情を変え、「あ……そういえばあの車、止まりもしなかったよね」と言った。
光輝をはねそうになった車のことだろう。
「う、うん。スピードも出てたし、危なかった」
「ね。俺、エンジンかけっぱなしだから多分映ってると思うんだよね」
あまねくんはそう言って車の方を指差した。慌てて戸塚さんを追ってきたものだから、車のドアも開けっぱなしで、エンジンもかけっぱなし。映っていると言われればドライブレコーダーしかない。
「絶対法廷速度守ってないし、あの運転は危険過ぎるよ。いくら光輝くんが飛び出したとはいえ、ブレーキも踏まずに突っ込んでくるなんてさ」
あまねくんは、すっと目を伏せて憤りを感じている様子だった。
これは……もしや……。
「とりあえず通報しておこう」
やっぱり……。
「で、でも横から撮った映像じゃ、あまり証拠にならないんじゃないかな?」
「ん? 大丈夫だよ。97-36」
「へ?」
「ナンバー。覚えてるから」
あまねくんは、平然とそう言ってスマホを取り出している。
よくあんな場面で冷静にナンバー見てる余裕なんてあったな……。
「よく、見れたね……」
「うん。俺両目とも2.0だからね」
にっこり笑うあまねくん。そういうことを言いたいわけじゃないんだけど……。
あまねくんはすぐに警察に電話をかけている。最近ではあおり運転や危険運転が多くて規制が厳しくなってきている。警察はすぐにやってくると言い、あまねくんは安心した様子で電話を切った。
「別に警察までいいのに……」
茉紀が引き笑いを浮かべて言えば「そういうわけにはいかないですよ! ああいう奴は、放っておくといつか轢き逃げするんだから」とあまねくんは眉をひそめた。
そんなこんなで警察官の対応をしてから自宅に入ることとなった。
私達にとっては警察官とはもう関わりを持ちたくないはずなのに、変なところに正義感をもつあまねくん……いや、違うか。きっと単純に光輝が危険な目に遭ったことが許せなかったんだ。私の親友の子供だから。
警察官は、少々めんどくさそうに対応していた。まあ、光輝は無事だったし、あまねくんのドライブレコーダーには横向きの車体と道に飛び出す光輝の姿が映っているし。
どう考えても、危険行動をとったのは光輝だ。親御さんもしっかりとお子さんを見ているようにとまで言われてしまった。
彼らはその後すぐに帰っていった。
そんな中でもあまねくんは平然としている。
「なんか、結局怒られたみたいになっちゃったね」
空気が気まずくならないよう、あまねくんに笑顔を作って言えば、彼は「まあ、こっちも悪いからね。それはしょうがない。でも、多分あの車の様子だと普段から危険運転に慣れてると思うから、きっと俺の映像が役に立つはずだよ」と言ってあっけらかんとしていた。
なぜそんな自信に満ちているのかはわからないけれど、彼がこういうことを言った後には必ず何かが起きているような気がする……。
私達は、気を取り直して夕食まで家の中で過ごすことにした。
すっかり光輝担当の戸塚さんは、リビングのソファーで光輝を膝の上に乗せてキバレンジャーを見ている。
麗夢はあまねくんの腕からは降りたが、テレビを指差し、時折あまねくんの方を向いてにまにましている。
まるで保育園だ。
あまねくんが子供とじゃれているところなんて初めて見た。いつも茉紀は邪魔にならないようにと子供を預けてくるから。
写真でしか光輝と麗夢を見たことがなかったあまねくんだが、すっかり面倒見のいいお兄さんをしている。
きっとお腹の子が生まれたらもっと可愛がってくれるだろうと思えた。
「結局こうなってすまない」
目を細めて言った茉紀に私は笑う。
「子供っちは見ててくれるみたいだし、夕飯作るの手伝ってよ」
「おっ、いいよ」
料理は苦痛とは思わないのか、二つ返事で頷いた茉紀。麗夢はもう何でも食べるというので具材もあるし今夜はキーマカレーとなった。
たくさん作ってご飯に乗せるだけ。お客様を出迎える感じではないが、光輝の好物がカレーだというのでそちらに合わせることとなったのだ。
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