7591人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
茉紀に怒られたことで、光輝と同じくらいしょんぼりしてしまったあまねくん。けれど、すぐにはっと顔を上げて「俺、ゲーム好きのおじさん知ってるよ!」と光輝に向かって言った。
まるでとんでもなく良いことを思いついたなんて顔をしている。
「ねぇ、茉紀さん。貰い物ならいい?」
あまねくんはそう言ってこちらを向く。その間にも麗夢はキーマカレーに手を伸ばし、器の中に手を突っ込んだ。
「あ……」
その様子を見ていた茉紀は「ティッシュある?」と私に尋ね、箱ごと渡すと数枚取り出して麗夢の元に向かった。
「うわっ、ちょ、麗夢ちゃん!」
茉紀の行動を見てから麗夢の手に気付いたあまねくん。慌ててその手を掴むけれど、向きを変えた麗夢の手は、見事にあまねくんの白Tシャツを汚した。
あーあ、それ高いブランドのだったのに。
私がふっと笑う中、「子供をあやすのに白を着る方が悪い」そう言って茉紀は麗夢の手を拭いてから、あまねくんのシャツをそのまま拭いた。
「うわっ、ねぇ茉紀さん広がったじゃん」
「うるさいね。どうせもう取れないよ」
「げっ……そうだよね……まあ、しょうがないか」
あっさり諦めたあまねくん。しかし、茉紀は「バカだね。早く脱ぎな」そう笑いながら言うと、あまねくんのTシャツをあっさりと剥いだ。
「追い剥ぎ……」
唖然としているあまねくんと戸塚さん。茉紀は、麗夢をあまねくんに預けたまま、こちらに向かってきた。
「シンクで洗っていい?」
私に確認してきた茉紀はTシャツの染み部分をつまみながら既にシンクに向かっている。私が頷くと中性洗剤を直接かけて洗い始めた。
酸素系の漂白剤も使用して手際よく染み抜きをした茉紀。
「おお……綺麗になった」
私がTシャツを広げて感動していると「すぐならとれるよ。あとはネットに入れて洗濯機入れちゃいな」そう言われ、私は慌てて脱衣場へ向かった。
戻ってくると、タンクトップ姿のあまねくんが「茉紀さん、ありがとう」と満面の笑みを向けていた。
「……あんた、そうしてると子供みたいだね」
顔をしかめた茉紀にそう言われ、彼はよほどショックだったのか、ガァァァンという効果音でも聞こえてきそうな程口を開けたまま呆けている。
「子供……俺、もうじき子供生まれるのに……」
麗夢を抱えたまま項垂れるあまねくんに、私達はクスクスと笑う。しかし、光輝だけは口をへの字にさせており「おれのスキッチは……?」と言った。
「ああ、そうだった! ねぇ、茉紀さん持ってる人がくれるって言ったらいい?」
あまねくんは再度そう茉紀に尋ね、茉紀は更に顔をしかめた。
「あんた、スキッチいくらするか知ってんの? ソフトまで買ってやらなきゃならなくなったら結構かかるんだよ」
茉紀が大きな大きなため息をつくが、あまねくんは何でもないような顔をして「まあいくらかかるかは知らないけど、本人がもういらないって言うならただだよね」と言った。
……理屈は間違っていない。だからと言ってそんなに都合よくゲーム機をくれる人なんて……。
「あ……」
私は1人思い出してしまった。ゲーム好きのお金持ち。お正月に朝までテレビゲームをやっていた人。
「律くん……」
私がぽろっと言うと、あまねくんは「正解」っと嬉しそうに笑った。
「でも、律くんって好きなのテレビゲームじゃなかった?」
「そう。だから小型ゲーム機って買ってもクリアしたらすぐに放置するんだよね。だから今まで買ったゲーム機も山積みになってんの」
「えー……」
意外だった。ゲーム好きなのは知っていたけれど、勤勉家のイメージだってもちろんある。いつゲームやってるんだろうなんて首を傾げてしまった。
「ちょっと電話してみるね」
そんな事を言って、すぐにあまねくんは律くんに電話をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!