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戸塚さんは光輝が膝に座っている状態のまま抱きかかえ、その場に立ち上がった。
「今日は車で来てるんですか?」
「ええ、はい。近くのパーキングに停めてあるんです」
「じゃあ、そこまで送りますよ。外は暗いですし」
戸塚さんはそう言って微笑んだ。茉紀はぶんぶんと手を振り「いえいえ! 大丈夫ですよ! すぐそこですし!」と断っている。
そのやり取りをこっそり見ている私とあまねくん。
「ダメですよ。女性と子供だけでは何かあると困りますし……こんな時間まで引き留めてしまったので」
戸塚さんはそう言うが、引き留めたのは他でもないあまねくんだ。律くんのところへゲームを取りに行くと言ったのもあまねくん。
つまり、あまねくんからその言葉が聞かれるならまだしも、彼は既に2人を追い出す気満々である。
「そんなことないです! 光輝が我が儘を言ったがばっかりに引き留めてしまったのは私ですし……」
「それはいいですよ。子供と遊ぶ機会なんて滅多にないので楽しかったです。また遊ぼうね」
腕の中の光輝にも話しかけ、光輝も嬉しそうにはにかんでいる。
「本当に色々ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。またまどかさんに言っていただければいくらでも相手になりますから」
「お気持ちだけいただいておきます」
そうは言うが、茉紀もなんだかんだ嬉しそうにしている。
結局戸塚さんがコインパーキングまで茉紀を送っていくことになり、かく言う戸塚さんも今日は近くのパーキングに駐車していた。
話を聞けば、今回は戸塚さんが車を出すつもりで迎えにきてくれたのだが、茉紀がくるならあまねくんの車をどかした方がいいのではないかという話に至ったそうだ。
戸塚さんの車をパーキングへ停め、あまねくんの車で出かけたのだけれど、家に着く前に既にコインパーキングに駐車していた茉紀は見事にすれ違いとなったようだった。
4人で玄関にて手を振る姿はまるで家族のようで、私もあまねくんもなんだか不思議な光景を見ているようだった。
こちらも玄関で見送って、戸塚さんと茉紀の姿が見えなくなると、私達は顔を見合わせた。
「なんかよくわかんないけど2人で帰ってったね」
「うん。本当なら俺が見送りするべきなんだろうけど……戸塚さんが行ってくれたし、先輩をあそこまで送り届けるのもおかしな話だし」
「本当だよね……。でも、何だかんだのほほんとしてたね」
「だって、あの茉紀さんが戸塚さんにはおとなしかったもんね」
「いやいや……いくら茉紀でも初対面の人に悪態つくほど非常識じゃないよ」
「俺、初対面からこんな扱いだけど」
あまねくんが自分の顔を指差し、顔をしかめる。あまねくんを呼び捨てにし、説教をする茉紀の姿を思い出して、私は苦笑した。
「まあ……あまねくんの時はお酒の席でもあったし……」
「シラフでも不当な扱いだけど」
「……うーん……戸塚さん、私達よりも年上だしね……」
「またそれ!」
本当に彼は年下扱いされることを嫌う。だって他に理由が思いつかないんだもの。あまねくんが不機嫌になろうとも、彼と戸塚さんとの扱いに差が生じるのも仕方がないように思えた。
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