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眉間に皺を寄せているあまねくんに、私は全てを説明して聞かせた。
すずらんのことも、結婚式の帰りもクリーニング屋さんも。
全て偶然を装った律くんによる必然だったことを。
全てがわかれば、あまねくんはきっと律くんに対する誤解を解いてくれるはず。律くんが如何にあまねくんを大切に思っていて、私達の幸せを願っているかをわかってくれるはず。
そう思っていたのに、あまねくんの顔は強ばっていて、その内にすっと表情をなくした。
「……なにそれ。じゃあ、俺とまどかさんが出会ったのは全部律が仕組んだことってこと?」
「さ、最初の映画館はもちろん臣くんが仕組んだことだよ! 研修で接触してきたことは律くんとは無関係だし……でも、それ以降は私とあまねくんが出会えるようにって……」
「なんだ、じゃあそれって偶然でもなんでもないじゃん」
「……あまねくん?」
「俺はね、まどかさんと何度も偶然出会えて本当に運命の人なんじゃないかって思ったんだよ」
「私だってそうだよ! そのことを律くんから聞かされたのはもう結婚間近の時だったし」
「待って、それ聞いたのってもう半年以上も前の話ってこと?」
「う、うん……。そうだけど……」
「まどかさんも知ってて俺には黙ってたってこと?」
なんだかあまねくんの目が冷たくてどきりとする。やっぱり、黙ってたこと怒ってるのかも……。
「……黙ってたことは悪いと思ってるけど、それが偶然じゃないってわかっても私はあまねくんと結婚したいって思ったんだよ。それともあまねくんは、それが必然だったってわかったら私とは結婚しなかったの……?」
「そんなこと言ってないじゃん! そのことをまどかさんだけ知ってるってことは、律がまどかさんにだけ話したってことでしょ?」
「そうだけど……それはあまねくんが誤解すると思って律くんも言わなかったんだよ?」
「誤解ってなに? 誤解もなにももう、2人で会ってたってことじゃん」
あまねくんはあからさまに大きな息を吐き出し、私に背を向けて廊下を突き進んで行った。
「ちょっと、待ってよあまねくん! 律くんと会ったのは、臣くんのことでゴタゴタしてた時で、その話のついでにあまねくんの話になっただけなんだよ」
「やましいことがないなら、2人でいたこと言えばよかったじゃん」
「やましいことなんてないよ! だから律くんはあまねくんのためを思って……」
「俺のためってなに? 俺はそんなこと頼んでないし。まどかさんも律のことばっかり」
「何でそんな言い方するの? 言ったらあまねくん何の話してたのって聞くじゃん。その時に本当のこと言ったら、今みたいになったんじゃないの? だから律くんだって言わなかったんじゃん」
私がそこまで言うと、あまねくんはこちらを振り返ることもせず「どうせ俺は子供で嫉妬深くて面倒だよ。まどかさんも律も大人だから、呆れて俺に気遣って言わなかったってことでしょ」そう言ってリビングのドアを開け、真っ直ぐ脱衣場まで向かって言った。
「そういうわけじゃないじゃん!」
「もういいよ。実家に帰りたいのだって俺といるよりも安心できるからでしょ? だったらいけばいいよ。それでまどかさんが安心できるならその方が子供にとっていいだろうし」
「なんでそんな言い方するの? あまねくん、納得してるわけじゃないじゃん!」
私の言葉に答えず、あまねくんはぴったりと脱衣場の扉を閉めてしまった。
誤解を解こうと思って話したことなのに。私はずっとあまねくんだけを好きでいて、律くんにだってどれ程私があまねくんを好きか聞いてもらったのに。
何であまねくんはわかってくれないんだろう。
私との再会が偶然じゃなかったから? 運命なんかじゃなくて、律くんの手で結婚させられたようなものだから?
だったらあまねくんはどうしたいの? 私と別れたくなるのかな? 私が運命の相手じゃなかったから。
お腹の子も、運命の相手の子供じゃないって思ったらいらないって思ったのかな……。
色んな事が頭を支配して何も考えられなくなった。その瞬間どわっと涙が溢れてそのまま頬を伝わず床にパタパタと散らばった。
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