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何だか凄く悲しくて、切なくてその場に座り込んでいつまでも泣いていた。
その内にドライヤーの音が聞こえ、暫くすると脱衣場のドアが開く音がした。
けれどあまねくんはそのまま2階に上がって行ったのか、こちらに来ることはなかった。
何でこんなことになったんだろう。さっきまで茉紀と戸塚さんがいて、皆で仲良くしてたのに。あまねくんもいいパパになるねって一緒に笑ってたのに。
今律くんのことは関係ないのに……。
私も仕方なくとぼとぼと浴室に向かった。泣きながら頭を洗って、メイクを落として、お風呂に浸かった。
お腹の中では陽茉莉が元気に動いているのに、あまねくんがいらないって言うかもしれない。そう思ったら、やっぱり苦しくなった。
私と顔を合わせることなく寝室に行ってしまったあまねくん。いつもなら、必ずおやすみのキスをくれてあまねくんの腕の中で眠るのに。
一緒に住み始めてからずっとそうやって夜を過ごしてきたのに。初めてあまねくんに拒絶された。そう思ったら悲しくて同じ寝室には行けなかった。
お風呂から出たら、暖房を入れていないリビングの温度が丁度よかった。昼間は日が入って暖かいが、夜になるとまだ少し寒い。
リビングのソファーに腰かけて、暫くぼーっとする。
赤ちゃん産まれるまで喧嘩したままだったらどうしよう。それどころか、赤ちゃん産まれても顔を合わせてくれないかもしれない。
立ち会い出産してくれるって言ったのに……。
あまねくんをここに残したまま私だけ守屋家にお世話になるのかもしれない。そしたら家族がバラバラになっちゃう。
また止めどなく涙が溢れて、どうしていいかわからなくなった。
時刻は22時16分。
この時間なら……と思い、私は律くんに電話をかけた。プルプルという機械音が数回鳴ってから「はい」と律くんの声がした。
「律くん……」
「どうしました? ……また泣いてます?」
さすが律くん。すぐに何かを察したのかふうっと息をつく声が聞こえる。
「うん……」
「あなたが電話をかけてくる時は大抵泣いてますね。今度は何があったんですか? こんな時間なら周がいるでしょ? さっき帰ったはずですよ。喧嘩ですか?」
「……はい」
律くんはとても鋭い。説明する間もなく、ある程度のことは察しがついてしまう。それでも理由まではわからないようで、私は喧嘩の経緯について語った。
「……だからあれ程言わないようにと言ったじゃないですか」
律くんは呆れた様子で息を漏らす。
「だってね、あまねくんが律くんのこと悪く言うんだよ……律くんがあまねくんのこと想ってしてくれたことなのに」
「そんなこと……。別に黙ってれば喧嘩にならずに済んだのに。馬鹿ですね」
「ばっ……!?」
なぜか馬鹿呼ばわりされたのは私の方で、口をパクパクとさせそれ以上言葉が出なかった。
「いつもいつも、周がすみませんね。予定日もう少しじゃなかったですか?」
「うん? うん、あと10日くらい」
「まったく……こんな不安定になる時期になにやってんだか……。今からそっちに行きます」
「え!? い、いいよ!」
「よくないですよ。暫くこのままでいるつもりですか? 時間が空けば気まずくなる一方ですよ。周に謝らせます」
「そ、そんなことしなくていいよ! 黙ってた私があまねくんを傷付けたんだから。明日にでももう1回謝るし」
「ダメです。あなたは悪くないんだから周よりも先に謝らないで下さい。とにかく行きますから」
時々律くんは強引だ。そして何だかとても怒っているようだった。律くんに電話をかけたことで少しだけ安心してる自分がいた。
もしかしたら本当に仲直りさせてくれるかもなんて期待してしまったからだ。
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