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私はそっとあまねくんの手を握った。ぎゅっと力を込めて。
「私、もっとちゃんとあまねくんとわかり合いたいって思う」
「……俺もだよ」
「だからね、私ももう隠し事なんてしない。あまねくんが傷付くかもとか、嫉妬するかもなんて思わずに全部話すね、何もかも」
「……え? ……まだ何かあるの?」
あまねくんは顔をひきつらせて、必死に口角を上げているようだった。
「律くんと2人で会ってたのはね、臣くんの日記が見つかったからなの。その内容について話したら、あまねくんには言わない方がいいって言われて……でも、やっぱりあまねくんが追々何で言ってくれなかったの? ってなっても嫌だし、隠し事されてることが不信感に繋がるなら、ちゃんと話すね」
「え……う、うん……」
私は、未だに顔をひきつらせたままのあまねくんの手を引き、リビングの電気を消した。階段の灯りだけで2階へ上がり、彼と一緒にベッドの中へ潜り込む。
2人横になったまま、私は臣くんの日記の内容について語った。誕生日プレゼントの謎、花井麻友との関係、彼女の実家へ行く約束、記入された婚姻届け、渡せなかった婚約指輪。
「最終的には議員の娘さんを選んだわけだから悪いのは全部臣くんだけどね……。でも、ちゃんと愛されてたんだなって知ったよ」
彼はずっと黙って聞いていた。相槌なんて一度も入れずに。
「あまねくんが臣くんと愛情のない付き合いをしてたって言う度に、この事思い出して、私も隠してるの心苦しかったんだ。でも、この事言えて、改めて臣くんとのことは過去のこととしてあまねくんと前に進もうって思えたよ。聞いてくれてありがとうね!」
私の心は晴れやかだった。裁判も終わり、判決が下され、雅臣とのことは全て過去のものになった。私はもうあまねくんに隠し事をしていないし、これで晴れてあまねくんと陽茉莉との人生だけを考えていける。
私は穏やかな心であまねくんの唇に口付けし、「おやすみ。あまねくん大好きだよ」そう言って目を閉じた。
泣き疲れもあるのか、すぐに睡魔が襲ってきて、瞼が重くなる。
薄れゆく意識の中、「聞きたくなかった……聞きたくなかった」とぼそぼそ呟くあまねくんの声が聞こえた気がした。
ーー
次の日目が覚めると、あまねくんの朝食が用意されていた。彼が反省した日は決まって朝が弱いくせに朝食を作ってくれる。
「おはよう! まどかさん」
「おはよう……早いね……」
目をとろとろさせながらキッチンへ行く。洗い物も既に終わっており、私の出番はなさそうだ。
「うん! 俺ね、考えたんだけどやっぱり俺、まどかさんに対する愛情が足りてなかったんだと思うんだ」
「……ん?」
「変に嫉妬したり、過去の恋愛に落ち込んだりしてるよりも今のまどかさんと陽茉莉をいっぱい愛さなきゃなって思って!」
「う、うん……」
「律や他の男が入る隙がないくらい、いっぱい愛情を注ごうと思ってね!」
「……ありがとうね」
……大丈夫だろうか。目が爛々としてるけど……もしかして彼は一睡もしていないんじゃないだろうか……。
眠気MAXを超えた謎のハイテンションのようにも見える。
「とりあえず、これから毎日朝ご飯は俺が作るね! それで、ゴールデンウィーク明けたら有給を取ることにしたよ!」
「え? え? 有給は予定日前後3日くらいにするって言ってなかった?」
「でもね、出産しても5日間は入院でしょ? ゴールデンウィーク中は病院通って、その後1週間休みとれば産後もずっと一緒にいれるでしょ? 実家帰っても毎日1日中一緒にいれるもんね!」
おお……そういう考えに至ったのね……。
「あまねくん、気持ちは嬉しいけど、有給は夏休みで結構使っちゃったんじゃなかった?」
「うん、でも10月に新しくもらったからまだあるんだ。夏休みは特別休暇もお盆休みもあったから、有給消化しきれてないし」
「でも、せっかくのお休みを全部私と陽茉莉に使ったら疲れちゃうんじゃないかな……」
「疲れちゃうのはまどかさんでしょ! 大丈夫! 沐浴も講座受けたの勉強し直したし、オムツの変え方も復習したよ! だから沐浴とオムツは俺がするでしょ。あ、あと泣いたら俺が抱っこするね!」
……それ、私母乳あげるくらいしかやることないんじゃ……。
「そんなに頑張ったらあまねくんがパンクしちゃうよ……」
「ううん、お母さんはね、母乳あげるとすっごいエネルギー消費するんだって! 3時間おきに母乳あげなきゃいけないんだよ。だからね、3時間はちゃんと睡眠とってその間は全部俺に任せて欲しいと思って!」
本当に大丈夫だろうか……。何だかとてもやる気に満ちているあまねくん。父親としての自覚が出始めたのは嬉しいけれど、なんかいき過ぎな気がする……。
「あとね、さっき律に電話したらベビーカーは律が出産祝いでプレゼントしてくれるんだって!」
さっき電話って……今6時7分だけど……5時台にかけたってこと……? 迷惑!
「そっか……ありがたいね」
「だから今日は律とベビーカー見に行こうよ!」
「……律くん、いいって?」
「うん! もう迎え行くねって言っちゃったもん」
強引!
こちらも仲直りしてくれたようで結構だけど、結局律くんもあまねくんに振り回されてるんだよな……。
日曜日の本日も朝から忙しくなりそうです。
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