それぞれの門出

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 午前10時。あまねくんの車で迎えに行き、律くんと千愛希さんと合流した。  大型のベビー用品店に行き、4人で中を歩く。私は律くんの横に並び「律くん、ごめんね……あまねくんが朝早くから電話をかけたみたいで……」と申し訳なく、しっかりと謝罪させていただいた。 「ああ……大丈夫です。もうね、昔からなんです。自分の都合で行動するから。俺は周程朝が弱いわけでもないから……まあ、今更……」  そう言いながら律くんは悟りを開いたような顔をしている。  昔からか……それはそれは……お兄ちゃんって大変だな……。 「千愛希さんもごめんね……。律くんと約束あったんでしょ? 何だか邪魔したみたいになっちゃって……」  律くんの左隣を並んで歩く千愛希さんにもそう言うと、彼女は律くんの後ろをささっと通って私を通り越してから右隣に並んだ。 「私、まどかさんに会えて嬉しいです! 律なんていつでも会えますからね! 周くんがお誘いしてくれたんですよ! 急にまどかさんに会えることになって夢みたい!」  彼女は胸の前で手を組んで、きゃっきゃと嬉しそうにしている。律くんは私の隣で「俺の扱い雑じゃない? どいつもこいつも……」そう不服そうにしている。  千愛希さんは相変わらずで、デートを邪魔してしまったなら申し訳ないなと思っていたが、嬉しそうにしてくれているので私も安堵することができた。 「ベビーカーっていっぱいあるんだね……どれがいいのかな?」  あまねくんは一足先にベビーカー売り場に行っており、そこに私達が追い付く形となった。  色んな種類のベビーカーをじっと見つめるあまねくん。 「あれから昨日は大丈夫でした?」  律くんが小声で私に尋ねた。 「大丈夫。解決したよ。律くんとあまねくんも仲直りできたみたいでよかったよ。ありがとうね」 「仲直りも何も周が勝手に膨れてるだけだからね。昔からそうだからそれも今更。変な劣等感あるみたいだからね」 「本人から聞いたよ。でも何だか今朝からハイテンションで……ちょっと心配」 「その内、落ち着きますよ。急に悟りを開いたみたいにおとなしくなったりするから。周の緩急に慣れないと振り回されますからね。いつもと違うと思っても自己解決するまで放っておくのが利口な方法です」 「えー……」 「まだ一緒に住み始めて8ヶ月経たないくらいでしょ。今真剣に悩んだりしてると本当に身が持たないから。子供が生まれたらもっと振り回されますよ」 「私大丈夫かな……」 「まあ、無理になったらうちに逃げてきたらいいですよ。どんなに子供みたいに悪態ついてもあなたから離れられないのは周の方なんだから」  そう言ってベビーカーを物色しているあまねくんをみて律くんはクスクス笑っている。 「律ー、ベビーカーってどれがいいの?」 「俺に聞かないでよ。店員さん呼んだら?」  律くんを手招きし、渋々あまねくんの隣に並ぶ律くん。遠くから見ている分には華麗なる兄弟なんだけどなぁ……。  私の隣にいた千愛希さんは、律くん同様小声で「まどかさん、昨日の話律から聞きました。私が周くんを誘っちゃったこと、すみません」と謝られてしまった。 「え!? 違う違う! 千愛希さんとのことで揉めたんじゃないんだよ。勝手にあまねくんが律くんに嫉妬したんだから」 「でも、私と会ってたこと言わなかったのは、私のせいだと思うんです」 「千愛希さんの……?」 「仕事帰りだって言ってたんで、そのままお家に帰るならまどかさんに会えるかなぁって期待してたんですけどね……」 「だったらうちに来たらよかったのに。コーヒーくらいなら出したよ?」  それの何が千愛希さんのせいなのかと私は首を傾げた。 「それが、周くんのお仕事終わったの凄く早い時間で確か3時頃だったんです」 「え……? でも、帰って来たのはいつもと同じくらいの時間だったよ?」 「はい。お客さんの所から直帰だって言ってたんで。私と1時間くらいお茶して……本当はこれ言っちゃダメだと思うんですけど、まどかさんがもやもやした気持ちになる方が嫌なんで言っちゃいますね」 「ん?」 「まどかさん、もうすぐ誕生日ですよね? それで、今から誕生日プレゼント選びに行くんだって言ってたんです」 「え!?」 「まどかさんに贈るものは自分で選びたいから、今日はお家に招待できなくてごめんなさいって断られて……。私と会ったことをまどかさんに言うと何で連れてきてあげなかったのって言われちゃうから今日は会わなかったことにして下さいって言われたんです」 「そうだったの……」  去年はネックレス貰ったっけなぁと思わず顔が綻んだ。そんな理由があったのかと律くんの隣でしゃがんでベビーカーを物色しているあまねくんが可愛く見えた。 「何か私その愛情に感激して律に話しちゃったんです。それで昨日、そんなことに……すみません」 「ううん。やっぱり千愛希さんは何も悪くないよ。それより、気を遣ってくれてありがとうね。私も知らなかったことにしとく」  そう言って千愛希さんに微笑むと、彼女は赤面しながら「美しい笑顔です」と言った。
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