親友の悩み

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「えー、どっちもなんて贅沢だよ」  本気で断られていると感じていないのか、両手で拳を作り、「周のばかばか」と上下に動かしている。  その様子をモニター越しに見る私は、何を見せつけられているのかもはや疑問だった。  その内「すいません、いいですか?」と声がして、プツッとインターフォンの回線が途切れた。 「……マズイ」 「え?」  あまねくんが顔をひきつらせているものだが、何がまずいのかと首を捻ると「ここの住民だったら、一緒に入って来ちゃうかも」と言った。 「えぇ!? それは……マズイ」  2人で大きなため息をつく。そのまま諦めて帰ってくれればいいけど。  その場でじっとしているのも手持ちぶさたで「とりあえずお茶淹れるね」とキッチンへ向かう。  茶筒を開けてお茶っ葉を急須の中に入れる。お湯を注いで少し待っていると、玄関のチャイムが鳴った。 「……来た」  インターフォンが取り付けてある壁に背中を預けて腕を組んでいたあまねくんは、気怠そうに、再びインターフォンの画面と向き合う。 「悪いけど帰って。ここまで入ってくるってどういうつもり?」  普段温厚なあまねくんだけに、苛立ちが伺えてこちらも鼓動が速まる。  エントランスの解錠してないのに、他の住民と一緒に入って来ちゃうなんてちょっと怖いかも……。  これで今後もこの手を使えば玄関までは入ってこれるということだ。 「どうって、周に会いたいだけだよー。ケーキ渡したら帰るからさ」 「いらないよ。もう陽菜ちゃんとは会いたくないから」 「え……? 何で? 何で何で? 陽菜、なんかした?」 「何かしたとかじゃなくて、昔から苦手なんだ陽菜ちゃんのこと」  そこまで言ったあまねくんの元に駆け寄る。お茶は2人分注いで、ダイニングテーブルの上に置いてきた。 「陽菜、周に久しぶりに会いたいだけだよ?」 「俺はもう二度と会いたくない」  陽菜ちゃんに対してこんなにもハッキリ拒絶するあまねくん。不謹慎だけれど、こんなにも可愛い陽菜ちゃんからの誘いをきっぱり断ってくれる姿に嬉しくなる。 「……そんなこと言っていいの?」  陽菜ちゃんは真っ赤な顔をして、バッグの中を漁る。時間が経ったせいで、ブチッと画面が暗くなった。  何だか嫌な予感がして、私はモニターに切り替える。 「ほう、ほっとけばいいよ」 「でも、何か探してるっぽいよ……」  がさがさと音がして、何かを取り出した陽菜ちゃん。ポストカード程の大きさに見える。 「まさか……」  何かを察したのか、あまねくんは目を細める。 「陽菜、調べたんだけどこの人一まどかって人なんでしょ?」  そう言ってモニター画面いっぱいに映ったのは、私の水着姿だ。  いやーーー!! 「ちょっと、あまねくん!」  画面のモニターを切って、あまねくんの服の袖を掴む。 「最っ悪だ……。だからアイツの手に渡るのは嫌だったのに……」  あまねくんは、ぎりっと音が鳴りそうな程歯を食い縛り、顔を歪める。  すぐに向きを変えて玄関に向かう彼。私もその後に続く。 「まどかさん、ここにいて」  そう言って壁の陰にいるよう床を指差す。私は頷いて、玄関からは死角になるトイレ前の廊下で足を止めた。  声はしっかり聞こえるだろう。
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