それぞれの門出

39/45

7588人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
 目が覚めると辺りは真っ暗で、変わらずあるあまねくんの体温。手探りでスマホを探し、画面を付けて更に電気のリモコンを探した。  常夜灯にすると、隣にあまねくん、部屋の中に置かれたサークルベッドの中には妃茉莉。時間を確認すると0時を回っていた。  一度も目覚めることなく6時間程眠っていたようだ。久しぶりにぐっすり眠れて体の疲れが取れたようだった。  おそらく私を起こさないよう、私が寝てすぐ妃茉莉を連れて1階に降りて行ったのだろう。どこまでも思いやりがあって気遣いのできる旦那さんなのだろうか。  仕事から帰ってきたばかりだというのに、すぐに妃茉莉のお守りを変わってくれて余程疲れたのだろう。彼はぐっすりと眠っている。妃茉莉も珍しく静かに眠っていて、私はもう一度眠りに就いた。  その日を境に、あまねくんの中でルールができた。18時に帰ってきたら、あまねくんが0時まで妃茉莉を見て、その間に私は睡眠を取る。その後0時から私に交代する。6時間睡眠が取れれば毎日妃茉莉を見ても大丈夫だというあまねくん。  今まで殆ど眠れなかった事を思えば、私も6時間睡眠が取れるのだから願ってもないことだ。  その間の授乳は、あらかじめ搾乳しておいたものを温めてあまねくんがあげてくれる。私があまねくんの膝枕で眠った日も、昼間胸が張りすぎて痛かったため、昼間たくさん搾乳しておいたのだ。それをダリアさんから聞いたあまねくんが、私を起こさず授乳させる方法があったと喜んで妃茉莉に哺乳瓶で飲ませてやっていたらしい。    そのルーティンが確立された今、私の体はかなり楽になった。あまねくんが私と同じように妃茉莉に向き合ってくれている。そう思うだけで、一緒に子育て出来てよかったと思えた。  あまねくんが休みの日は、昼頃まであまねくんは熟睡し、私は昼過ぎから目が覚めるまでずっと眠る。週にたった2日だってこんな日があるのが幸せだった。  そんなことをしていたら、あっという間に月日は経ち、目まぐるしい生活を送る中、茉紀の裁判は終わっていた。茉紀も子育てが大変だろうと気を使って連絡を控えていたようだが、あまねくんのいる日曜日に電話を寄越した。  名波佳穂のドライブレコーダーにも、光輝の姿が写ってから急発進する光景か映っていたため、殺人未遂は立証された。ただ、光輝に怪我がなかったため、刑はかなり軽くなったようだった。  それでもそのまま野放しにしておくよりはマシだと茉紀も安堵している様子だった。 「前の旦那さんとその名波って人はどうなっただ?」 「さあ? それは知らん。3回も不倫するほど夢中になってた相手なら、刑務所から出てくるまで待っててやればいいよね」 「まぁ……ね。でも、向こうの親が許さないんじゃないの?」 「そりゃ、そうだら。犯罪者を身内にするなんて、普通なら考えられないよ」 「そりゃそうだわ」 「だけん、相手はいくらでもいるだら。その内違う女と再婚しそうだよ」  茉紀の言葉にげんなりする。そういう人って本当にいるんだなと思いながら、元夫の顔を思い浮かべた。 「でも、茉紀もようやくこれで全て終わったんだから、息抜きとかできればいいね」 「うん。でも、息抜きならさせてもらってる」 「そうなんだ」 「うん。一緒に公園に行ったり食事に行ったりするだけでけっこう息抜きになるんだ」 「一緒に公園? 誰と?」 「ん? 政宗さん」 「え? なんで?」 「ん? そういうことだから」 「そういうことって……」 「お付き合い始めました」 「えぇぇぇぇ!?」  顎が外れそうな程驚愕した私は、スマホを落としそうになりながら、頭をフル回転させる。私が妃茉莉と格闘している間に、恋を始めた2人がいた。予想もしていなかった2人だけに、お似合いだけれどまだまだ状況を飲み込めそうになかった。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7588人が本棚に入れています
本棚に追加