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話を聞けば、律くんに相談した日に連絡先を交換した2人は、直接やり取りをするようになったという。
なんとなく状況を察していた戸塚さんは、親身になって話を聞いてくれ、光輝が戸塚さんに会いたいと言えば喜んで公園にでも連れていってくれたそうだ。
身内は妹さんしかいない戸塚さん。最初は遠慮していた茉紀だったが、子持のシングルマザーにとやかく言う親がいないとのことで、徐々に心を許せるようになったそうだ。
交際を申し込んだのは戸塚さんの方からで、子供がいるし迷惑をかけるかもしれないからと断ったそうだが、「俺が支えたい」と強く言われ、承諾したそうだ。
時折戸塚さんの家に泊まりに行くと、食事は作ってくれるわ、麗夢の授乳はしてくれるわ、光輝とも遊んでくれるわでとても生活が楽になったと言っている。
「光輝はわかってるのかな?」
「なんか、わかってるみたい。もっと嫌がるかなって思ったけど、ママが嬉しいならいいよって言ってる」
「え……なんか、凄いね」
「まあ、もう7歳だからね。子供ながらにわかるよね。アイツといた時には喧嘩ばっかりだったし、光輝が話しかけても無視することもあったりしてさ。その点、政宗さんは光輝に寄り添ってくれるからね。パパっていうより、友達感覚なんだろうけど」
「結婚するってなったら子供の態度が変わったなんてことも聞くからそこは心配だけど」
「まあね。まだまだ結婚なんて考えてらんないけどね。アイツじゃあるまいし」
「わかんないよー。子供いても押しきってきた戸塚さんのことだから、結婚も強引かもしれない」
「ちょ、想像したらおかしいんだけど」
茉紀は楽しそうにケタケタ笑っている。最後に見た顔は、名波佳穂の件でショックを受けていたから、久しぶりに聞いた笑い声に安堵する。
「でも、幸せそうでよかった」
「あんたもね。子供生まれる前と変わんないじゃん」
「そうでもないだよ。今はあまねくんがかなり協力してくれてるから、十分睡眠取れてるし、だいぶ楽になったけどさ。この生活に慣れるまでは鬱になるかと思ったよ」
「まあ、産後鬱になる人も多いしね」
「あんた、旦那さん全然手伝ってくれなかったのに、よく病まなかったね」
「あー……病んでる暇なんかなかったよね。アイツの世話にだけは絶対になりたくないって思ったし。だってどうせ私が産後鬱になっても義母に言いつけてめんどくさいだなんだって言って1人で実家に帰るだろうしさ」
「こんなこと言うのもなんだけど、本当にクズだったんだね」
「うん、そうだよ。マジで失敗した。アイツの飯作らなくてよくなった分、シングルの方が楽だわ。つっても、実家だからご飯出てくるしお風呂沸いてるし、母親の先輩いるからね。数倍今の生活が楽だよね」
「おばさん優しいしね。でも、近況聞けてよかったよ」
日常が忙し過ぎて、茉紀の心配をする暇さえなかったように思える。現在、とても幸せそうな茉紀の声に、私も育児を頑張ろうと思えた。
一昨年の私なら、こんな現状はとても想像できなかった。雅臣と結婚するかしないかで悩み、あまねくんと出会って恋に落ちて。雅臣の最低さを知って、あまねくんの深い愛情を知った。
本当に望んで結婚する幸せを教えてもらったし、子供が心から可愛いと思えるようになった。
警察沙汰になったり、茉紀と喧嘩をしたり。ハイジさんとだって喧嘩したっけ。謎だらけだった茉紀とハイジさんの関係は、蓋を開けてみれば結局のところなんでもなかった。勘ぐって拗れた関係は、少しずつ修復していって、また良好なものへと戻った。
茉紀にとってよき理解者だったハイジさん。戸塚さんとお付き合いを始めた今、きっとハイジさんよりも戸塚さんに頼ることの方が多くなっていくことだろう。
私があまねくんといて幸せなように、茉紀も次こそ結婚生活を素敵なものだと感じられるような関係になって欲しいと切に思う。
茉紀は気が早いと言うけれど、あの正義感溢れる戸塚さんのことだ。きっと茉紀のことをこの先もずっと守っていきたいと思ってくれるように思うんだ。
ハイジさんもまた、それをすごく喜んでくれる気がする。
私達のゴタゴタした日常は、少しずつ平穏を取り戻している。
1年後も5年後も10年後だって、きっと私はあまねくんと妃茉莉と幸せだと思える毎日を過ごしているのだと思う。子育てはまだ始まったばかり。妻として、母として課題はたくさんあるけれど、この先も幸せな家族団欒の一時を大切にしていきたい。
茉紀の電話を切った後、妃茉莉の手を触れば、私の人差し指をぎゅっと力強く握った。
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