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戸塚さんと茉紀が籍を入れたのは交際を始めて1年くらい経った頃だった。私が予想した通り、戸塚さんからのプロポーズで入籍した。一度は断った茉紀が押しの強い戸塚さんに負けて、つい頷いてしまったと言っていたが、茉紀も満更ではなさそうだった。
あの時7歳だった光輝も今では12歳であり来年には中学生になる。そう考えると時の流れとは恐ろしい。
政宗と無邪気に呼んでいた光輝も今ではスムーズにお父さんと呼んでいる。慣れるまでに時間がかかったようだが、小さかった麗夢が自然とパパと呼ぶようになったためか光輝も徐々に慣れていったようだ。
「電話珍しいじゃん。何かあっただ?」
「それがさ、アイツから電話んかかってきただよ」
「アイツって?」
「元旦那だよ! 他にいないら?」
「えぇ!? 何でまた! 再婚する時に養育費を貰わない変わりにもう干渉しないってならないっけ?」
「なっただよ! 結局アイツ、他の女と結婚したじゃん? だけん、それから一向に子供ができないみたいでさ、今更会わせろとか言ってきただよ」
「は!?」
私は子供達の目も気にせず声を張り上げた。茉紀の元夫が再婚する予定だった不倫相手が殺人未遂容疑で捕まったことで、彼の熱は一気に冷めたようだった。孫を轢き殺そうとしたことで、元夫の両親はお冠で何であんな女と不倫なんかしたんだと世間体を気にする故に、散々責められたのだそうだ。
それなら茉紀の方がよかっただなんて離婚も親権争いも終わっているのにも関わらず懲りずに復縁を求めてきた。
暫くして戸塚さんと付き合い始めると、付きまとう元旦那に戸塚さんがきつく関わるなと言ってくれたため、今までおとなしくしていたのだ。
それから暫く元夫の話など聞かなかったのだけれど、どうやら穏やかではない。
元夫が別の女性と結婚したらしいという噂を聞いたと茉紀が言っていたのも何年も前の話であり、本当に今更何を言っているのかわけがわからない。
「私の友達にさ、アイツと共通の友達がいて、捨てた女の子供なんてもう俺の子供じゃないとか、養育費も払ってないんだから今更どうなろうが知ったことじゃないとか言ってるとは聞いてただよ」
「おお……安定のグズっぷりだね」
「だら? だけん、その女と結婚してみたら子供はできないしアイツも38だもんでこれ以上遅くなるのはとかなんとか言ってるらしいだよ。そんで今更やっぱり俺の子供は光輝と麗夢しかいないとか言い出してんだよね」
「はぁ……そんで、どうするだ?」
「それがさ、結論から言うと会わせただよ」
「はぁ!?」
茉紀の言葉に度肝を抜かれた私。あれほど嫌がっていたはず。今だって、会わせたくないというような雰囲気だった。それなのに既に会わせただと……?
「政宗に話したら、父親には変わりないんだから子供達がいいって言うなら会わせたら? って」
「と、戸塚さんが?」
「うん。まあ、そういうところあるよね。あまねみたいに嫉妬に狂ったりしないからね」
「悪かったね……」
「まあ、それで光輝に聞いてみたんだよね。そしたら会ってもいいよって言われたもんでさ……」
「え……意外。てか、本当は会いたかったのかな?」
あれだけ戸塚さんになついていても、本当の父親だ。戸塚さんをお父さんと呼ぶことに抵抗があった光輝のことだ。本当はずっと実の父親に会いたいんじゃなかったのか。そんなふうに思ったが、茉紀はふっと笑って「光輝、アイツに会ってなんて言ったと思う?」なんて言い出した。
「え? なに? 笑うこと?」
「うん。アイツに対してずっと敬語でさ、あなたには父親らしいことをしてもらったことはありません。僕の父親は一緒に住んでるお父さんだけなので、もうお母さんのことを困らせないで下さいって言ったんだよ」
「えぇ!? 光輝、小6だよね!?」
「うん。この5年間、政宗が育てたようなもんだからね。すっかり礼儀正しい子になっちゃって、ちょっと毒も吐くよ」
茉紀はそうおかしそうに笑っていた。とにかく光輝がそんなことを言うようになっていたとは驚きだ。確かに前回会った時にも聡明そうに育っていた気はする。育て方が違うとこうも変わってくるのか……。
「麗夢なんておじさん誰ー? ってへらへらしてたよ」
茉紀の言葉に私はつい吹き出した。麗夢は小さかったからなぁ……。子育てしてこなかった父親のことなんて既に覚えてないのか。
悲しいが、これが現実。実の我が子に散々な言葉を浴びせられ、元夫は肩を落として帰っていったそうだ。その日の光輝は、戸塚さんが帰ってきてからベッタリで、お風呂の中で元夫が凄く嫌だった話を延々したそうだ。
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