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近況報告を聞いて驚きはしたが、戸塚さんとも子供達とも上手く行っているようで安心した。
「あんたんところは何かあった?」
「いや、うちはなんも。妃茉莉もませてきたし、悠莉も喋るようになってきたしね」
「イヤイヤ期はこれからか」
「ううん、すでに言うよ。今はいいけん、ひどい時はうるさい」
「まあ……しょんない。過ぎりゃちったぁ可愛くなるら」
「それまで頑張るしかないね」
「だね。あまねも変わりない?」
「うん。相変わらずだよ。でも、妃茉莉の時みたいに悠莉も見てくれるから楽だよ」
「そりゃ言えてる。私も謙信産まれてから、政宗が父親でよかったって思ったもんね」
深く頷く茉紀の姿が想像できる。謙信は茉紀と戸塚さんとの間にできた子供で、戸塚さんの名前が伊達政宗からとった由来を聞いて面白がった茉紀が、上杉謙信からつけたのだ。
そんな適当でいいのかと聞けば「軍神って呼ばれてたくらいの天才だよ? しかも女性に間違えられる程の美形。そう育ってくれたらそれだけで親孝行だわ」なんて言っていた。
女性に間違えられる程の美形って……あまねくんみたいに育ってほしいってことかしら。それは……あまねくんの血を引いている悠莉でもどうだろうかと悩ましいところだ。
「ただ、上杉謙信って生涯独身だったんだよね……なんとかして結婚くらいしてもらわないとね」
とも言っていたが、結局謙信で落ち着いたのだ。戸塚さんは光輝と麗夢に変わらず優しく接しながら、幼い謙信の事を溺愛している。実の息子を授かったのだから当然だ。戸塚さんの凄いところは、「光輝が血縁関係がないことが不安にならないように、平等に接したい」と言っていたところ。
茉紀が断るのを押しきって結婚しただけあって、元夫の子供でも自分の子供としてとても大切にしているのだ。その人柄を光輝も知っているからこそ、父親として受け入れたのだろう。
「本当、戸塚さんいい人だよね。結婚して良かったね」
「うん。出会えてよかったわ。そういうあんたも雅臣にしておかなくてよかったね」
「もうその話は……あ! そう言えば、臣くん刑務所から出てきたんだよ」
私は2ヶ月程前、傷害事件でお世話になった警察官の磯部さんが訪ねてきた時のことを思い出していた。
私に会いに私の実家まで行ったようだが、既にこちらに住まいを移している事を知ってここまで来てくれたのだ。
そろそろ刑期を終えて出所する雅臣が、また危害を加えるのではないかと怯えてはいないかと心配で来てくれたとのことだった。日記の件でも磯部さんにはお世話になり、既に5年という月日が経っているにも関わらず、気にかけてくれたことに心が温まるようだった。
磯部さんも昔、自分が担当した犯人に奥さんが狙われて怪我をしたことから、私とあまねくんを他人事とは思えないと言ってくれていたのだ。今でもその優しさが胸に染みる。
当の雅臣はというと、出所する当日、刑務所の前で花井麻友が待っていたそうだ。
花井麻友は雅臣を刺した張本人。精神病と診断された花井は警察病院へ入院していたのだが、雅臣よりも早く退院していた。
懲役がつかなかった花井は、雅臣の面会に度々顔を出していたそうだ。本来であれば、刺した犯人が被害者に会いにくるなどおかしな話だ。危険なため、面会もさせないようだが、雅臣が許可したために花井は何度も雅臣の元を訪れたそうだ。
そうして出所時に刑務所の前で待っていた花井は、雅臣の車椅子を押して一緒に帰っていったそうだ。
何とも不思議な話である。磯部さんは、驚くくらい穏やかな雰囲気だったから、恐らくそちらに危害がいくことはないでしょうなんて言っていた。その後彼らがどうなったかは知らない。誰からも何も聞かないのだ。
ただ、花井麻友にとって雅臣はどんな状態であれ留めておきたいたった1人の理解者だったのかもしれない。
そんな話を茉紀にする。
「はぁ……雅臣も変な男だったけど、その花井麻友ってやつも相当だよね」
「うん。ただ、もう私達とは住む世界が違うんだと思う。理解できないことばっかりだし。でも、変だけど2人が一緒にいることをお互いに望んでそれでいいと思えたんだったらそれが一番平和な気がする」
「まあ……ね。どう頑張ったってうちらにはストーカーの気持ちも殺人鬼の気持ちもわかんないからね」
5年もあれば、いろんな事が変わる。今から更に5年後には悠莉も小学生に上がるし、私は既に40代になっている。
今までのことをなかったことにはできないけれど、嫌な過去があったからこそ、幸せだと思える今がある。
ふとテーブルに目を向ければ、妃茉莉が悠莉にご飯を食べさせてやっていた。こんなふうに人は少しずつ成長する。
たくさんの愛情に包まれながら、幸せな日々を送り、私はこれからも家族を大切にしていきたい。
「あ、今度さうちでホームパーティーやろうよ。政宗にハイジさんにお世話になった話をしたら、あまねからも聞いてたみたいで俺も会いたいって言ってたんだ」
「おおっ、ハイジさん久しぶりだね! 昼間来てくれるかな?」
「眠い目擦りながら来てくれるよ、きっと」
私は、目付きの悪く気怠そうに前髪をかき上げるハイジさんを想像して茉紀と一緒になって笑った。
【完】
→あとがき
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