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翌日は朝から守屋家に出向き、ダリアさんの手伝いに励んだ。皆が集まるからと言って大量の料理を用意したのだ。
「ダリアさん、こんなにたくさん食べれますかね?」
「大丈夫よー! 律と周がいるから」
そう言ってダリアさんは楽しそうに笑っている。律くんとあまねくんは細身のわりによく食べる。高身長のため、栄養が必要なのだろうか。
「で? 何で千愛希を誘ったの?」
リビングでは腕を組んだ律くんに、あまねくんが冷たい視線を向けられていた。
「だって、羨ましそうな顔してたよ? 千愛希さんは実家帰んなかったの?」
コトコトと弱火で煮込む鍋の側で、律くんとあまねくんの会話に耳を傾けた。
「兄弟が多過ぎて一度に集まると両親がうるさいんだって」
「兄弟多いの? 何人?」
「10人」
「10人!?」
あまねくんの声に私も驚く。
「そこに両親と祖父母がいて14人だってさ」
「そ、それは集まったら大変だね……」
「一番下が小学6年生だと」
「しょ、小学生!?」
「まだ手がかかるから帰ってくるなって言われるみたいよ」
律くんはスマホを取り出して欠伸をしている。いつも眠そうにしているなぁと思っていると、律くんと目が合った。
「まどかさんも何で止めなかったの?」
そんなとばっちりを受けた。
「律くんと話し合って決めるかなぁって思って……。千愛希さん来るの嫌なの?」
「……別に」
律くんはふいっと顔を逸らす。
「父さんに紹介しなきゃいけなくなるから嫌なんだよ、きっと。向こうの親御さんにも挨拶をとか言われるから」
あまねくんはそう言って笑っている。
「律ももう30なんだから、女の子くらい連れてきたっておかしくないわよ。もしかしたら女の子は恋愛対象じゃないんじゃないかって一時心配したんだから」
ダリアさんも野菜の切れ端を片付けながらそう言って笑う。
「律から女の子の話なんて聞かなかったもんね。そりゃ母さんも心配になるよね」
「周も他人事じゃないのよ。ずっとまどかちゃんばっかり追いかけて。お嫁さんに来てくれたからよかったけど、そのままずっと独身でもおかしくなかったんだからね」
ダリアさんは眉を下げて小さく息をついている。
ダリアさんにしてみれば、画面越しの恋に溺れている息子を抱えて心配だったに違いない。あのまま臣くんと結婚してたら……って、向こうはする気なんてなかったけど。他の人と出会って結婚してたらあまねくんはどうしたんだろうか。
「そしたらお嫁さんに来てくれるまで俺は待ったよ! 他の人と結婚しないように色々対策も考えたし!」
自信満々でそんなことを言うあまねくん。
「お前ね、何度も言うけど犯罪だからね」
律くんは顔をひきつらせ、「まどかちゃん、あんな息子でごめんね」とダリアさんは恥ずかしそうにしている。
「だ、大丈夫です。私はこうして今幸せですし」
ダリアさんを慰めるように言えば「ほら、聞いた? まどかさん幸せだって言ってるもん」と意気揚々と語るあまねくん。
まったく、調子がいいんだから。
「千愛希さんと付き合ってなくても仲良しなんでしょ? 別に父さんには友達だって紹介したらいいじゃん」
「そのつもりだよ。でも、そろそろ結婚も考えろとか言ってきそうだし」
「結婚する気ないの?」
「今はね。仕事忙しいし」
「暇な時なんてないじゃん」
「……うるさいな」
2人のやり取りを見ていると、兄弟らしくて笑えてしまう。
あまり納得していない律くんだが、自室から降りてきたお義父さんの姿を見て顔を伏せた。
「父さん、今日律の友達がくるんだってさ」
あまねくんは、律くんの気持ちなどお構い無しにそう嬉しそうに言った。ぎょっとした顔をした律くんは「ばかっ……」と言って頭を抱えた。
やっぱり律くんよりあまねくんの方が上手な気がする。私はダリアさんと一緒になって笑った。
昼間は家族水入らずで食事をし、夜になれば千愛希さんがやってきた。やはり全く人見知りをしないのか、守屋家の皆さんと和気あいあいと会話をしていた。
どうやら緊張するのは完全に私の前だけらしく、こんなことを言ったら失礼だが、千愛希さんが礼儀正しい普通の女性に見えた。
律くんもその様子に安堵したのか、少し早めの年越しそばを食べ、歌番組を見ながら盛り上がった。
「年越しは一緒にお祝いしようね」
そう言っていたあまねくんは、昼間散々騒いでいたからか23時頃には既にホットカーペットの上でうとうとしていた。
結局0時5分前に律くんに叩き起こされ、ぼーっとしているあまねくんと新年を迎えたのだった。
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