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私はダリアさんと並び、昼食を作った。朝食でないのは、私達以外誰も起きてこないからである。
おばあちゃんとダリアさんは、早めに朝食を摂ったと言うので、私はダリアさんに促されるまま出来立てほやほやの料理を一足先にいただくのだった。
ようやくお昼頃になってお義父さんが起きてきた。いつものビシッと決まったスーツ姿とは違い、寝癖のついたパジャマ姿。土日でも友人達とゴルフに行っていることが多いため、こんなにも無防備な姿を目にするのは初めてだった。
「おはようございます」
「……おはよう。まどかさん、早いね。周はまだ寝てるでしょうに」
「はい。そろそろ起きるかもしれませんね」
目を擦りながら欠伸をする姿はあまねくんそっくりで、声を殺して笑った。
「仕草があまねくんそっくりですね」
ダリアさんに耳打ちすると「そうでしょ。周が学生の時なんて並んであんなだったから、しょうがない人達って文句言ったこともあったの。結局お休みの日は何度言っても無駄だからその内言うのも疲れて寝かせておくことにしたわ」と顔をしかめている。
私と同じだ。そう思うとこりゃ律くんのお嫁さんも大変だろうなと無意識に千愛希さんを見る。
まだ寝ている2人を見て、お義父さんが「いいねぇ。気持ちよさそうで」なんて言ってまた欠伸をした。
うちのお父さんならこたつをひっくり返してぎゃんぎゃん騒ぐだろう。守屋家はとても平和である。
盛り付けをしていると、とんとんと階段を降りる音がする。すぐにあまねくんが入ってきて「まどかさん、早くない? 寝ても寝ても眠いんだけど」そう言って首もとを掻きながら欠伸をしている。
デジャヴですか? そう思う程にお義父さんと似ていた。そして、お義父さん同様こたつの方を見ながら「何だ、仲良しじゃん」そう言ってまた欠伸をした。
何でこんなに平和なんだ……。守屋家のお正月、最高過ぎる……。
私の実家に行かなくてよかったとこっそり安堵の息をついた。
「あれあれ、皆揃ってるね」
そう言っておばあちゃんも入ってくる。昨日は久しぶりにたくさん話をした。あまねくんがまだ感じたことのない胎動を「元気だねぇ」と言いながら喜んでくれた。それを見て「何で俺の時ばっかり!」と彼が拗ねていたのは言うまでもない。
「皆にお年玉をあげなきゃいけないと思ってね」
そう言って取り出したポチ袋。おばあちゃん、私達皆もう大人です。
「これはあっくんね」
そう言ってあまねくんに渡している。
「ばあちゃん、年金暮らしなんだからこういうのもういいんだって」
眠そうにしながらあまねくんは言うが、「いいんだよ。あっくんはいつまでも子供なんだから」と言われてしまい、不服そうにポチ袋を眺めている。
その様子に私とダリアさんは思わず吹き出した。
リビングからカウンターキッチンへと向けられる痛い視線を逸らし、私とダリアさんは笑いを堪えながら盛り付けを続けた。
「りっちゃんはまだ寝てるね。かなちゃんもこんなところで寝ちゃって。まあまあ、風邪をひくよ」
「ばあちゃん、それ奏じゃないよ」
「あら? そう? 綺麗な子だけどね。じゃあ、まどかちゃんかね」
「まどかちゃんはあっち」
そう指を差した先を目指してこちらにやってくるおばあちゃん。やり取りが可愛くてほっこりする。
「まどかちゃん、明けましておめでとう」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
「はい。お願いします。今年もりっちゃんをよろしくね」
そう言って渡されたポチ袋。
「ばあちゃん! まどかさんは俺の奥さんなの! 律のじゃないよ!」
遠くから悲痛の叫びが聞こえる。
「あらあら。まどかちゃん、りっちゃんのお嫁さんじゃないの?」
「違うんです。あまねくんと結婚したんですよ」
「そうだったかね。どっちでもいいね。お嫁さんに変わりないもんね」
突っ込みどころ満載のおばあちゃんの発言に、私とダリアさんはまた笑うはめになる。
「どっちでもよくない! 大問題だよ!」
完全に覚醒したあまねくんが、納得がいかないとばかりにおばあちゃんに駆け寄る。
おばあちゃんの視線があまねくんに向いた隙に、私はダリアさんにポチ袋を渡し「あとでこっそり返しておいてもらえますか?」と言った。
「もらっておいてもいいのよ? おばあちゃんの好意だし」
「そういうわけにはいきませんよ。この子が生まれた時には、ありがたくいただきます」
「そう? じゃあ、来年が楽しみね」
そう言って笑いながらダリアさんはそれを受け取った。中にいくら入っているかは知らないが、年金暮らしの高齢者からとてもお年玉なんていただけない。
そんな中、あまねくんの叫び声に反応した律くんと千愛希さんがむっくりと体を起こした。
「……何事?」
「……うるさ」
寝ぼけてキョロキョロと顔を左右に振っている千愛希さんに、不機嫌全開で前髪をかきあげ顔をしかめている律くん。
「はいはい、りっちゃんとかなちゃんにもお年玉をあげようね」
おばあちゃんは嬉しそうにそう言いながら2人に近付いて言った。
「ばあちゃん、それ奏じゃないってば」
既にポチ袋を渡しているおばあちゃんの後追うあまねくん。やはり守屋家は平和である。
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