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昼食を済ませてから私とあまねくんは神社へ向かった。元旦で賑わっているだろうから、時間をずらして初詣に行こうということになった。
「ゆっくり歩いていこうか」
「寒くない? 大丈夫?」
「寒いけど大丈夫。お腹巻いてきたから」
腹巻きで防寒した私はマフラーで鼻まで覆い、準備万端である。一歩外に出れば例年より暖かい気がした。
「昔は1月ってもっと寒かったよね?」
私がそう言うと、隣を並んで歩くあまねくんが私の手を取り「子供の頃とか霜はってたじゃん。今もうそういうの見ないよね」と言った。
「温暖化って凄くない? 雪が降らないのはいつものことだけどさ、もはや水溜まりも凍らない世の中ですよ」
「全くですね。寒がりのまどかさんには丁度いいですね」
「おかげで夏は死ぬ程暑いですけどね」
「他県では40度を超えるところもあるみたいですよ。去年のアスレチックを思い出しますね」
いつの間にか敬語で会話をしていた私達は、去年のアスレチックを思い出し、同時に「殺人未遂も……」と声を揃えて言った。
「臣くんどうしてるかな」
「何、心配でもしてるの?」
「そりゃ心配だよ。この子生まれてから裁判なんて大変じゃん。やるなら早くしてほしいなぁ」
「ああ、そっちの心配ね……。今リハビリ中なんでしょ? 言ってもまだ半年だもんね。どのくらい回復するか知らないけど、走って追いかけてこないだけマシか」
「うん。ねぇ、詐欺の方ってどうなったか知ってる?」
「え? 律から聞いてない? 結局あの飯田だっけ? 飯島だっけ? あの人の単独だったことがわかってあの男が逮捕されたんだよ」
あまねくんは、知らなかったの? と目を大きくさせてこちらを向く。
昔に比べて元旦でも仕事をしている人が増えたにも関わらず、人通りは多い。ぶつからないよう、あまねくんとの距離をなるべく縮めて歩く。
「知らない。ずっと裁判進まないなぁって思ってたんだ。じゃあ、臣くん悪くなかったってこと?」
「元々結城さんは本当に真面目に事業をして人生立て直すつもりだったらしいね。でも、あの後輩があの人のことを慕ってて、早く結果を出して結城さんの収入を上げたいって思ったみたいよ」
「……何か、あの人も異常な人に好かれるんだね」
「結城さん自体が異常者だからね。でもまあ、経営者は結城さんだから少なくとも何らかの罪には問われるんじゃないの?」
「そう。じゃあ、後は私との裁判か」
「うん。早く解決して欲しいね。もうさすがに刺しにくるなんてことはないと思うけどさ」
あまねくんの言葉に私は深く頷いた。
せっかくの正月だというのに、嫌なことを思い出してしまったと気が滅入った。
神社につくと凄い人の量だった。
「わぁ……すごい! 去年もすごかったけど、今年もいっぱいだね!」
「うん。まどかさん、階段気を付けてよ? 去年はさ、まどかさんが大人になってから元旦に初詣きたの初めてって言ってたよね」
「うん。両親は正月休みあるから子供の頃は行ったけどさ、大人になってからはずっと仕事だったから。テレビで初詣の様子とかやってるけど、実際にこんなにいるもんなんだってびっくりしたよ」
「気を付けないともみくちゃにされちゃうね。安産祈願もしたいから、今日来れてよかったよ」
何だかんだ嬉しそうなあまねくん。境内の横を通りすぎ、人の列に並ぶ。一体手を合わせられるのはいつになることやら。
去年もいっぱい待ったなぁなんて思いながらも、あまねくんと話していたらあっと言う間に順番が回ってきた。
昨年のお礼と今年の挨拶、赤ちゃんの無事を祈ってたくさんお願いしてしまった。欲張りだって怒られちゃうかな。
そう思って横を見れば、あまねくんは私以上に長くお願い事をしていた。
「何お願いしたの?」
「んー? まどかさんのことだよ」
そう言って嬉しそうなあまねくん。
きっと赤ちゃんが無事に産まれてくるようにお願いしてくれたんだろうなぁなんて思いながら、あまねくんの手を引いておみくじ売り場に向かう。
「おみくじ引くの?」
「去年も引いたじゃん」
「まどかさんは大吉だったからいいけど、俺凶だったじゃん……あ……もしかして、だから去年あんなに色々あったってこと?」
それは全て臣くんのこと。
「そうかもねぇ。でも、結婚して赤ちゃんできたのは私の大吉のおかげかもよ?」
「おお……。大吉万歳だね。じゃあ、俺は今年こそ大吉を……」
そう言って一生懸命おみくじ箱を振りたくっている。飽きもせずに長いこと振ってようやく出た番号からおみくじを取り出した。
私もその箱を受け取り、今年も大吉がでますように……そう願っておみくじを引く。
「せーので開けるよ」
「いいよ。せーの!」
そう言った瞬間、「やった! 大吉!」あまねくんがおおはしゃぎしている。嘘でしょ……私の手の中にあるのは凶。
「去年と逆だねぇ……」
私のおみくじを見て、あまねくんのテンションは一気に下がった。去年のおみくじの結果があれだとしたら、今年もまだ一山くるのか……。そんなふうにあまねくんも思ったに違いない。
「私の方が凶とか不吉……。この子になにもないといいけど」
「大丈夫! きっとこの子が守ってくれるよ! だって安産祈願もしたもん」
「そうだね。これ結んで、お守り買って帰ろう」
恐らく最初に待ち受けている山は伊織くん。きっと大吉のあまねくんを連れていけば大丈夫! そう心の中で叫びながら、再び手を繋いで神社の中を歩いた。
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