効果覿面

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 私達は指定された店に入り、驚愕する。高級そうなお店だ。伊織くんの名前を出すと、すぐに案内された。 「何か、凄いお店だね……」  私が恐縮してあまねくんに小声で話しかけると「ね。金持ちの道楽って感じ」と嫌味を言っている。  本当に本人に悪態ついたりしないだろうかと今から気が気じゃない。  個室に通され、中を覗くと暖色のライトで照らされた広い個室だった。高そうなシャンデリアが高い天井から下がっていて、その下でいくつものシャンパンが置かれている。 「こんばんは」  声をかけると伊織くんが私に気付き、顔を上げた。 「まどかさん! お久しぶりです。今日は遠くまでありがとうございます」  笑顔で私達の元に駆け寄る伊織くん。 「初めまして。いつも妻がお世話になっております。夫の守屋周と申します。本日は押し掛けてしまって申し訳ありません」  私が答えるよりも先に、あまねくんが私と伊織くんの間に入って言った。  高身長の周くんを見上げるようにして伊織くんが視線を上に向ける。 「……初めまして。間宮伊織と申します。こちらこそ、すみません。奥様をこんなところにまで呼び出してしまって。ご迷惑ではなかったですか?」 「とんでもない。妹がお世話になったそうで、一度お会いしてお礼をしたいと思っていたところです」  お互いによそ行きの顔をしている様子の2人。伊織くんの背後に能の面、あまねくんの背後に般若の面が見えるのは気のせいだろうか……。  初対面でこの空気。大丈夫かな……。 「奏ちゃんのお兄さんになるんですよね? まどかさんの話を聞いた時には驚きましたよ」 「ええ。妹も姉ができて嬉しいようで、妻にはすっかりなついてくれていますよ」 「仲が良さそうで羨ましいです。あ、遅くなりましたがよければどうぞ」  そう言って伊織くんはあまねくんに名刺を渡した。プライベートでも持ち歩いているのだから油断ならない。そう思っていたら「頂戴致します。よろしくお願いします」そう言ってあまねくんも名刺を渡していた。  プライベートでも名刺のやりとりって普通なの!?   職種柄、今まで名刺を持ったことなどない私は2人のやり取りに唖然する。 「税理士さん……なんですか?」 「ええ」 「立派なお仕事をされているんですね」 「いえ。プロデューサーさんこそ難しいお仕事と思いますし、大きな番組もされていると聞いています。脱帽しますよ」 「いえいえ、とんでもない」  腹の探り合いでもしているのだろうか。不自然な程の笑顔である。  そんな中、「間宮さーん。乾杯しよー!」と中から声が聞こえる。 「はーい。今行くよー!」  奥の席まで届く声で返事をした後、伊織くんは「友人達を紹介します。中へどうぞ」と中に通された。  奥まで入っていくと、集まっていた面々に絶句した。ドラマやCMでよくみる女優さんと俳優さんがいたからだ。 「皆、紹介するね。俺が大学の時にお世話になった一まどかさん……あ、今はえっと、守屋さんになるのかな? それと、旦那さんの……守屋周さん」  伊織くんはあまねくんが渡した名刺を何度か見ながら、私達を紹介した。私とあまねくんは頭を下げ、「初めまして。本日はお招きいただきありがとうございます」と言った。 「それから左から俳優の三岡(みつおか)(ゆう)くんと中西賢人くん。それと女優の鮎原(あゆはら)ななちゃんと近衛(このえ)真緒美(まおみ)ちゃん。テレビで見たことのあると思うけど」  伊織くんは笑顔でそう紹介した。中西賢人という人は、何度か伊織くんから送られてくる写真に写っていた人だ。検索するまで知らなかったけど有名らしい。 「よろしくお願いします」  4人も頭を下げて笑顔を向けてくれる。  とりあえず乾杯をしたところで「旦那さん、凄いイケメンですね! モデルさんかなにかですかぁ?」と近衛真緒美が言った。  この子は、朝のCMで柔軟剤を紹介してたぞ。若い子だと思う。おそらく20代前半。 「そんなことないですよ。普通の職業に就いてます」  あまねくんがにっこりと笑顔を向けると、女性2人は、きゃっきゃとはしゃぐ。そうだよなぁ……芸能界にいてもおかしくない程綺麗な顔してるし。そんなふうに思いながらあまねくんの顔を見上げる。 「またまた、謙遜しないで下さいよ。旦那さんは税理士さんなんだって」  伊織くんが間に入ると「えー! 凄い! 頭いいんですねぇ!」と尚もテンションを上げている。 「大したことないですよ」  あまねくんは珍しく大人な雰囲気でお酒を飲む。普段の子供のようなあまねくんを見たら全員が驚くだろう。 「奥さんは何されてるんですか? テレビのお仕事されてたんですよね?」  急に鮎原ななに声をかけられ、視線を移すがすぐに言葉がでなかった。 「妻は今妊娠中なので仕事は辞めて家にいてもらってるんです」  あまねくんが代わりに答えてくれた。 「えー。じゃあ、専業主婦ですか? 今時珍しいですね」  そんなことを言われて、嫌味のように聞こえる。そりゃ、芸能界でバリバリ仕事をしているあなたたちは忙しいでしょうね。と私は少し面白くない。
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