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「俺が仕事を辞めて欲しいってお願いしたんです。仕事中に何かあっても嫌だし、家に帰ったら一番に出迎えてもらいたかったので」
あまねくんはさらりとそう言った。その言葉に女性陣は高い声を上げ「えー! そんなのこと言われてみたーい!」とはしゃいでいる。
「奥さんはそれでよかったんですか?」
私の対角線上に座っている中西賢人が話に加わってきた。
「え? はい。仕事は好きでしたけど、家で主人を待つのも楽しいですよ」
そう笑って答えた。
「ラブラブでいいなぁー。まだ新婚さんなんですか?」
近衛真緒美がこちらを向いていう。
「はい。まだ籍を入れて4ヶ月程なんです。一緒に暮らし始めたのも最近なので」
私がそう答えると「え? じゃあ、子供が出来たから結婚したんですか?」と鮎原なな。一々気になる発言をする子である。
「結婚の話はもっと前から出てたからいつ子供ができてもいいねって話してたんですよ。入籍したその日にそういえば……って言って妊娠わかったんだよね?」
あまねくんが笑顔でそう答えてくれたことでその場が和んだ。さすが、ムードメーカー。
「えー! 何かそれって1番嬉しい妊娠発覚じゃないですか!」
近衛真緒美がテンションを上げて顔を綻ばせた。
「そうなんです。だから、俺も嬉しくて。妻に似た女の子が産まれてくることを期待してるんです」
「え? 女の子なんですかぁ?」
「まだ性別わかってないんですけどね」
あまねくんの言葉に皆がどっと笑う。す、凄い……もう馴染んでる。私だって毎日利用者さんと話をする仕事に就いてたのに……こういう場面では全く積極的に話せない。
やっぱりあまねくんがいてくれてよかった……。
ちらっと左隣のあまねくん越しに角席を空けてその横に座った伊織くんに目を向けた。全く興味がなさそうにスマホをいじっている。
あまねくんのことが気に食わないのだろうことくらい私でも察しがつく。
「旦那さん、お若いですよね? 今おいくつですか?」
女性陣はすっかりあまねくんに興味津々で、妻である私の斜め横からぐいぐい質問を投げ掛ける。
肉食系の女の子って怖い……それとも友達同士でいるから強気なんだろうか。
「28です。そんなに若くもないですよ」
「えー! 年上だぁ! 同じくらいかと思いましたぁ」
「そんなに幼く見えますか?」
あ……ちょっと機嫌損ねた? 年下であることを私よりも気にしているのはあまねくんだ。それは私の元カレが年上で、あまねくんが年下であることを理由に私が結婚を渋ったから。
未だに年齢のことを言われると面白くないようだ。
「そんなことないですよ! 大人な雰囲気はありますけど、とにかく肌が綺麗なんで!」
「いやいや。お二人こそとてもお綺麗なのに、そんなこと言われたら困ってしまいます」
「えー! そんな、お綺麗なんてぇ!」
ねぇ! なんて言いながら2人は顔を見合わせている。いや、今完全にお綺麗待ちしてましたでしょうよ。と私は言いたい。それをぐっと堪えていたら、「奥さんも同じくらいなんですかぁ?」なんて鮎原ななが話を振ってきた。
嫌な女。私だって年上なの気にしてるのに。20代前半の子達の前で30代だって言うのも気が引けるのに……。そうは思うが、そんなことで競っても若返ることなど決してない。
「私は33になるんです」
そう答えると、予想通りの「えー! 奥さんの方が年上なんですねぇ」「姉さん女房ってやつですかぁ?」なんて馬鹿にされているような言葉。はいはい、年上で悪かったですね。
軽く微笑んでいると「私よりも8個も年上だぁ。私もそんなに綺麗な30代でいたいですぅ」と近衛真緒美が言った。
ほーう……。8個も年上ね……そりゃ若くていいわね。どうせ私は30代ですよ。そんなふうにふてくされていると隣のあまねくんはクスクスと笑う。
「そうでしょう? 俺、年上にしか興味ないんです。だって、こんなに色気のある女性なんてそうそういないじゃないですか」
と恥ずかし気もなく言ってのけた旦那さん。こんなところで! と思うものの、思わずときめいてしまったのは言うまでもない。
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