効果覿面

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 あまねくんの言葉にようやく顔をあげたのは伊織くん。スマホをパンツのポケットへしまい、「まどかさんは20代前半でも色っぽかったですよね」なんて言い始めた。  ちょ……そういうの、止めて。うちの旦那さん、そういうの嫌いなの。俺の知らないまどかさん的なやつ。 「そ、そんなことないよ。まだまだ子供だったし」 「いやいや。大学生の俺には凄く綺麗な憧れのお姉さんでしたよ」  嬉しそうにそう伊織くんは言う。 「えー、間宮さんとはテレビの関係で知り合ったんでしょ?」  近衛真緒美が言う。 「そうそう。俺がまだバイト時代ね。地元のテレビで大人気だったんだけどさ、全国ネットは全部断ってすぐに引退しちゃったの。あのまま勢いがある時にローカルだけにしなければもっと人気出たと思うなぁ」 「彼女はあくまでも静岡市を活気つけるために活動していたんですよ。本職もありましたし、そちらに影響が出ると迷惑がかかるからってわざと制限したんです」  すかさずあまねくんがそう答える。自他共に認める一まどかファンのあまねくんは、私よりも私のことに詳しいのかもしれない。 「ええ。当時、まどかさん本人から聞いていましたから知っていますよ。ただ、今のプロデューサーの立場から言うと彼女の魅力を色んな人に知ってもらいたかったなぁっていうもったいない気持ちもあるんですよ」  伊織くんはそう言いながらシャンパングラスに口をつける。シャンデリアからの光を受けて、輝く気泡が綺麗だった。 「それなら俺も共演してみたかったなぁ。間宮さんが言うくらいだから、きっといい番組になったでしょうね」  おとなしく話を聞いていた三岡悠がそう笑顔で言った。甘い笑顔を見せる彼は、爽やかな王子様タイプ。髪の色も明るくて、元気な男の子という印象。おそらく美容師やアイドルのような役が似合う。 「三岡くん、バラエティー出たがらないじゃん。番宣だけでしょ」 「まあ……芝居してる方が楽しいんで。でも、間宮さんイチオシなら全然出ますよ」  何となく上から目線で好きじゃない。どちらも。 「まどかさん? は、あんまり芸能界に興味なかったんですか? 市の活気付けのためって言ってましたけど」  中西賢人は、不思議そうにこちらをみる。彼は黒髪で意思の強そうな凛とした容姿をしている。王道のイケメンである。今の若い子達はこういうお顔が好きなのね。 「はい。市長さんからの依頼で広報に載ったらたまたま出演することになったので、もともと期間限定だったんです」 「ふーん、たまたまねぇ」  彼らは面白くなさそうに目を背けた。好きで芸能界に入った人達からすれば、入るためにも仕事をもらうにも苦労しただろうし、面白くないのも頷ける。 「皆さんが芸能界で頑張りたいのと同じくらい、私は本職の方で頑張りたかったので」  そうフォローしたつもりだったが「何の仕事してるんですか?」なんて聞かれ、介護職だと言えば鼻で笑われてしまった。  恐らくこの人達にとっては芸能界こそが天下であって、自分達が何よりも必要とされている存在なのであろう。  やっぱり仲良くなれない人種かもしれない。 「旦那さんの方は芸能界興味なかったんですか? せっかくイケメンなのに」  中西賢人はあまねくんにも目を向けた。 「考えたこともなかったですからね。特に俺は需要ないし。妻と一緒にいられたらそれでいいし」  嫌味に対してもスマートにこなすものだから、あまねくんがとんでもなく大人に見えて思わず笑ってしまった。 「何笑ってるの?」  ふっと隣で微笑まれて「ううん。あまねくんらしいなぁって思っただけ」そう言って微笑み返せば、すっかりしらけた様子の俳優人達。 「皆さん、仲いいんですか?」  そんな雰囲気の中、臆せず発言するのだから旦那さんは強い。 「1年前にドラマで共演してから仲良くなったんだよ。それで、近衛真緒美ちゃんは俺の番組に出てくれて、そっからの繋がりで皆でよく食事するようになったんだよね」  伊織くんがそう言うので、私とあまねくんはふーんと何度か頷く。結局のところ、私もあまねくんもこの人達に興味がないのだ。 「結構高視聴率だったんだけど、見てなかったのかなぁ?」  彼らはもっと喜んでもらいたいのだろう。反応の薄い私達に、鮎原ななが大きな瞳をパチパチさせてこちらを見る。  そういうことは聞かないでもらいたい。 「何ていうドラマでしたっけ?」 「幼馴染の憂鬱っていうドラマです」 「ああ!」  ドラマ名を聞いて私は声を上げた。 「あ、知っててくれて嬉しいです!」  鮎原なながにっこり笑ったことでその場が和んだ。言えない……丁度その時間帯、違うドラマを見ていたことなんて……。  私は出来る限り話を合わそうと心に決めた。
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