効果覿面

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 なるべくドラマの話を深堀しないように、話題もそこそこに普段何をしているのかや趣味についてなどプライベートを中心に会話を進めた。  元々大人数で集まるのが得意ではない私は、既にお腹いっぱいである。妊娠していなければお酒の力を借りてこの場をやり過ごすが、何せ1人だけシラフなのも辛い。  その場から逃げるようにしてお手洗いへと席を立つ。オシャレな洗面所で顔を鏡に写せばすっかり疲れた表情をしていた。  リップを塗り直し、馴染ませる。ポーチにリップをしまって顔を上げると、私の後ろに近衛真緒美が立っていた。  驚いて目を見開くと、鏡越しににっこりと微笑まれた。  後ろを振り返ると、「何で人妻子持ちのくせに間宮さんにちょっかい出すんですか?」と言われた。  その目は冷めていて、機嫌は頗る悪い。  ああ、またこのパターン……。嫌な予感はしていたけれど。  私の横を通り、鏡に向かって化粧直しを始めた彼女。 「ちょっかいなんて出してませんよ。何度もお断りをしたのに諦めてもらえないので来たんです」  初対面で常識のない態度に腹が立ったため、私はそう答えた。それが面白くなかったのか、「何それ。間宮さんに好かれているとでも言いたいんですか?」と鏡越しに睨まれる。 「そんなことは言っていません。あなたが言ったように私には主人も子供もいるので、間宮さんには異性としての興味はないと言ってるんです」  相手にしても馬鹿馬鹿しいだけだ。そう言って私は背を向けた。 「はぁ? 興味はないって何!? 妊婦のくせに色気振り撒いてんじゃねぇよ」  彼女は乱暴に化粧ポーチを洗面台に置いて、勢いよくこちらを振り向いた。私は、バッグの中に手を入れ、ボイスレコーダーの録音ボタンをこっそりと押した。  旦那様からの忠告だった。敵陣に乗り込む時には証拠を残すこと。去年の修羅場の数々で何も学んでいない私ではない。 「振り撒いてませんよ。女性のあなたが色気を感じてくれたなら嬉しいことですけど」  挑発する気もなかったのだが、嫌味として捉えられたのか「ちょっとテレビに出たからって調子に乗らない方がいいですよ! 私からすればあなた程度なんて凡人ですから!」と鼻で笑われた。 「そう思っているならそう突っかかってこなくてもいいんじゃないですか? あなたは若くて綺麗で人気もある女優さんでしょ? 男女問わず好かれているあなたが、私みたいな凡人にむきになることなんてないんじゃないですか?」 「そっ、それはそうだけど……」 「彼はこっちにいる時間の方が長いみたいだし、私と会う機会なんてほとんどないんです。間宮さんの事が好きなら、私にかまってないで隣の席にでも座ったらよろしいんじゃないですか?」  にっこりそう言ってやれば「その余裕の態度がムカつくんだよ! 妊婦ならおとなしく夜は家にいろよ!」と鼻の穴を広げて怒鳴られてしまった。  怖い、怖い。 「じゃあ、そろそろ帰らせてもらいますよ」 「そうして! あんたみたいに空気の読めない人が帰ってくれたらせいせいする! あんなイケメンな旦那さん捕まえて……どうせ体使って既成事実作ったんでしょ。淫乱女」  そう言ってふんっと鼻息を荒くして私の横を颯爽と通りすぎて言った。  ……なんですと? 淫乱女……だと? それは解せない。  沸々と怒りが込み上げ、何かもう一言くらい言い返してやろうと思い、私も早足で彼女を追いかけた。  しかし、角を曲がってすぐそこに彼女の背中があったので、私は急いで足を止めた。ぶつかるところだった。  彼女の背後から前を覗けば、壁に寄りかかって腕を組み、怖い顔をしているあまねくん。そして、その隣で青冷めた顔でおろおろとしている伊織くん。  多分、会話聞かれてたよね……?  目に見える修羅場の開幕に、私は顔をひきつらせた。 「あっれー、2人共どうしたんですかぁ? こっちは女子トイレですよ! 男性陣はあっち!」  声を高くして2人に話しかける近衛真緒美。しかし、その空気が変わることは当然ない。 「どういうつもり? うちの妻に何言ってくれてんの?」  先程までの余所行きの顔が嘘のように鋭い眼光を放っている。これは、臣くんに見せる目と同じ。  ああ、敵としてロックオンされてしまった。  私は目頭を押さえて、これから起こるであろうあまねくんの攻撃をどう対処しようかと頭を働かせた。
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