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あまねくんに背中を預けながら、夜景を見つめる。ほんの少しあまねくんからお酒の匂いがして、私まで酔いそうになる。
「こんなにいいホテル、凄く高いでしょ? 結婚式も挙げたばっかりなのに……」
2人の結婚式だというのに、式はまどかさんとご両親のために挙げたようなものだからと金銭的な管理は全てあまねくんが行ってくれた。
一緒に祝儀を確認したりはしたが、実際のところ式にいくらかかったのかは知らされていない。
富士山が綺麗に見える会場で式を挙げたし、それなりに費用はかかっているはず。
仕事も辞めてしまった私は、貯金の中から月々かかる保険料やスマホ代なんかを支払うだけで精一杯だ。そのため、家のローンも生活費も何もかもあまねくん任せ。
それなのにまたこんなにいいホテルまで用意してもらっては申し訳ない気持ちも募る。
「んー、いいんだよ。結婚式もさほとんど祝儀で賄えたし」
「え? そんなに多かったっけ?」
「父さんと律からね」
「え!?」
初耳だった。ただでさえ口うるさいお父さんのせいでしっかり結納までやって、結納金までいただいてしまったのに……。
あんなに盛大に守屋家に歓迎された上に、相当なご祝儀までいただいてしまっては申し訳ない。
「あんなに大切にされている娘さんをお嫁にもらうなんて、ありがたいことなんだからって200万くらいくれたよ」
「に、200万!? ちょ、わかってたらお礼言ったのに! てか、お礼だけじゃ足りないし!」
「いいの、いいの。律も家にばっかとじ込もってないでたまにはどっか連れてってやんなよって言ってその4分の1くらいくれたし」
「はぁ!?」
「律だって普段は一人で過ごしてること多いくせにね。自分も千愛希さん連れて遊びにいけばいいのに」
「や、ちょっとあまねくん……いくらなんでももらい過ぎでは? 結婚式の資金は貯めてあったからってご祝儀とは別にいただいてしまったよね?」
「まあね。でもそんなことないと思うよ。2人の好意だからいいんだって。俺だって律と奏の時にはそれなりに包まなきゃだし」
そう言ってあまねくんは笑っている。兄弟同士でこんなにも大金が動くなんて……仲の良い証拠だけど。
「……結婚して大丈夫だったのかな? なんか、迷惑をかけたみたいで申し訳ないな……」
「何言ってるの、まどかさん。俺ね、ずっと結婚するならまどかさんとって思ってたんだよ。律はそのことよく知ってるし、まどかさん以外の女の人は両親に紹介したこともないんだ。だから、両親も律も凄く喜んでくれてるんだよ。もちろん、奏もね。
まどかさん以外となら結婚しないって言い張ってたから、両親には心配させたと思うんだ。でも、本当に好きな人と結婚できたから……」
そう言ってあまねくんは、私に頬擦りする。確かにダリアさんも、一生独身なんじゃないかと思ったなんて言って笑っていた。
「じゃあ、皆喜んでくれてる?」
「当たり前じゃん。うちの家族は皆まどかさん大好きなんだから。奏は東京行っちゃってるしさ、すぐに来れる距離に俺達がいるのってきっと貴重なんだよ。それに、初孫だしね」
あまねくんは私のお腹をそっと撫でる。お姉ちゃんの子供を見て泣いていたお父さん。あの顔を思い出すと、お義父さんとダリアさんにも早く初孫を見せてあげたい気持ちになった。
「初孫、早く抱っこさせてあげたいね」
「でしょ? でも、俺が先だよ。パパだもん」
「そうだね。きっとこんなに優しいパパなら赤ちゃんも嬉しいね」
「そうかな? 赤ちゃんはこんなに綺麗なママがいることの方が嬉しいと思うよ」
「えー。そんなこと言うのあまねくんだけだよ」
「それならこんなに心配しない。祝福してくれる人は多いけど、敵も多いんだから。こうやって現実逃避するのもいいでしょ?」
「そうだね。綺麗で、オシャレで、普段じゃ味わえない高級感だもんね」
「ね? だから、お金のことも、父さん達のことも気にしなくていいの。まどかさんは、ただこの場を楽しんで。それで、俺にいっぱい幸せちょうだい」
そう言って頬に軽くキスをされた。見上げれば、美しく優しい笑顔の旦那様。先程の怖い顔なんて微塵も感じさせない、甘い甘い雰囲気。この人は、どこまでも私に甘くて優しい。
こんなに甘やかされていいのだろうかと時々不安になる程。しかし、まどかさんの幸せそうな顔を見てる時が俺の幸せ。なんて嬉しい事を言ってくれるので、今夜はとことんこの別世界のような空間をあまねくんと満喫することにした。
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