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バスルームから見える夜景はとても幻想的で素敵だった。大きなバスタブに湯をはって、久しぶりにあまねくんと一緒にお風呂に浸かった。
「あー、温泉じゃないけどさ、のんびりできるね」
「うん。景色綺麗。雪は降ってるけど雨じゃなくてよかったね」
「そうだね。でもやっぱこっちは寒いよね」
「ねぇ。風はあまりないけど、何て言うか刺すような寒さというか」
「でも、新年からこうやって落ち着けるのは、幸先いい感じするじゃん?」
あまねくんの腕に閉じ込められながら、そんな会話をする。あまねくんの濡れた髪から1つ水滴が落ちて、私の肩を濡らした。
「凶だったけどね」
「まだ気にしてるの? 俺も去年凶だけどそんなに悪い年じゃなかったって思ってるよ。まどかさんが手に入ったし」
そう言って私のお腹を擦る。あまねくんにとっては、どんなに嫌な出来事よりも私と結婚したことが上回るらしい。
そりゃ私もあまねくんと出会ってこうして素敵な贈り物をしてもらっている時が幸せだ
。
けれど、雅臣のことはそのままだし、茉紀の事もそのまま。ずっとこのまま何もないわけではない。それを考えるとさすがに今年一年凶だって気にしない! という考え方にはならない。
今日のところは、私の運気よりもあまねくんの力が勝ったようだけれど、こんな事がいつまで続くのだろうか。
「私もあまねくんと出会えて幸せだよ。でも、この先は不安……」
「大丈夫。何があっても。俺は、まどかさんさえいてくれたらそれでいいんだ」
「あまねくん……」
「不幸は嫌だけど、欲張らずに一緒にいられたらそれだけで幸せって考えたらきっと乗り越えられるよ」
「確かに……あまねくんと一緒にいられたら幸せ」
「ね? だから、こうやってちょっとずつ幸せを積み重ねて大きくしていけばいいじゃん。まどかさんが凶だって、俺はそれごと受け入れるもん」
無邪気に笑うあまねくんを見ていたら、なんだか色々考えて不安になるのも馬鹿馬鹿しく感じた。
先のことなんて考えたってわからない。とにかく今はこの時間を大切にしたい。
お風呂から上がり、1つのベッドに一緒に入る。せっかく大きなベッドが2つあるけれど、あまねくんの隣で眠りたい。
お酒が入っているせいか、少し会話をしていたらその内に寝息をたて始めたあまねくん。
いつも傍にいてくれて、私を守ってくれるヒーローだ。寝顔はとても幼くて可愛いけれど。
私はその寝顔に癒されながら、スマホを手に取った。店を後にしてから一度も見ていなかった。おそらく伊織くんから連絡がきているだろう。そう思ったのだ。
案の定、数件のメッセージが届いていた。
〔まどかさん、先程は本当にすみませんでした。まさか真緒美ちゃんがあんなことを言うだなんて思ってもみなかったのです。嫌な気持ちにさせてしまって申し訳ない〕
〔まだ怒っていますよね? まどかさんに喜んで欲しくて友人を呼んだのですが、逆効果だったみたいで反省しています。改めてお詫びをさせてください〕
〔今度静岡に帰ります。美味しいフレンチのお店があるのでご馳走させてもらえませんか?〕
〔一度2人きりでお話できませんか? 旦那さんのご迷惑にはならないようにしますので〕
そんなメッセージの数々。
「ねぇ、あまねくん。この人、全然反省してないみたい。やっぱり、凶の人だよ」
私はそう言って眠るあまねくんの頭を撫でながら深い深いため息をついた。
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