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〔それは、妻と二人きりで会いたいということでしょうか? 夫の私がそれを許すとお思いですか?〕
〔私は友人として彼女に会いたいと思っております。決してやましい気持ちなどありません。守屋様の勤務が終わる頃までにはご自宅にお送りします〕
〔結構です。自宅を教えるつもりもありませんし、下心があろうがなかろうが妻と二人きりで過ごすことを許すつもりもありません〕
〔随分と縛り付けるのですね。そのように嫉妬深い旦那様では、彼女も窮屈なのではないでしょうか。もう少し自由を与えてあげてもよろしいかと思います〕
〔立場をわかっていての発言ですか? 束縛や嫉妬云々ではなく、あなたの存在が彼女の負担になると言っているのです。自由を与えた上で、妻自身があなたとは会いたくないと言っています。ご理解できますか?〕
〔ですから、直接まどかさんからの言葉をいただきたいと言っているのです。彼女からスマホを取り上げて私に連絡してきている可能性も否定できませんので〕
私はそこまで読んで頭を抱えた。
「この人、どこからの目線で言ってるのかな? 何だかまるで……あまねくんと対等みたいな……」
「でしょ? 夫の俺と同じ目線で返してくるんだよ。もう堂々巡りで埒が明かないよ」
「本当だね。やっぱり私から直接お断りしないと納得してもらえないみたいね」
「いいよ。もうブロックして削除しちゃいなよ。端末の番号教えてるわけじゃないんでしょ?」
「う、うん……。でも、あまねくんが私のことを縛りつけてるみたいな誤解されたままにするのは嫌だよ……」
彼はこんなにも私を思ってくれているのに。他人から嫌な旦那さんだと思われるのも嫌だし、奏ちゃんが芸能界にいる以上変な噂を回されるのも困る。
「別にいいよ、俺のことは。それよりもいつまでもソイツとまどかさんが連絡取ってることの方が嫌だ」
ふいっとまた窓側を向いてしまうあまねくん。
「わかってるよ。でも、奏ちゃんのこともあるし誤解は解いておきたいよ」
「奏だってもう大人だし、自分の仕事の事は自分で対処できるよ」
「でも、変な噂流されたらどうするの? 奏ちゃんの仕事が減っちゃうかもしれないんだよ?」
「……めんどくさいな、芸能界って」
「うん……。でも、私は奏ちゃんのこともあまねくんのことも大切だから」
「……わかったよ。でも、危険なことはしないで。直接会うのはダメ。電話までにしてね」
仕方がないと、あまねくんは眉を下げて表情を崩す。何だかんだ言っても、彼も奏ちゃんの事が心配なのだ。
こちらには音声データもあるし、このメッセージだって証拠にはなる。向こうだって危うい立場なのは同じだ。臆することなんてない。
私は帰宅してから伊織くんに電話をかけた。あまねくんとのやり取りから2時間後の事だった。
「もしもし、間宮です」
警戒しているような声色で電話に出た伊織くん。あまねくんがかけてきたと思ったのだろう。
「伊織くん? まどかです」
「ま、まどかさん!? どうしたんですか? 電話、大丈夫なんですか?」
急に声が高くなり、早口にそう言った。
「うん。伊織くんも今お仕事大丈夫?」
「大丈夫です! 収録も打ち合わせも終わって一段落ついたところなんです。それより、まどかさん大丈夫ですか? 旦那さんに酷いこと言われたりしてませんか?」
「されてないよ。申し訳ないけど、主人とのやり取りを見させてもらったよ」
「は、はい。まどかさんには本当に嫌な思いをさせてしまってすみませんでした」
「少し驚いたし、正直初対面であそこまで言われるとは思ってなかったよ」
「そうですよね……。あの子にも注意しておきましたので。すみません……」
「ねぇ、伊織くん。本当にあの子が伊織くんに気があるって気付いてなかったの?」
「え? あ、はい……」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、向こう側で動揺している様子が伺えた。
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