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「少しでも気付いてたんなら、あの子にとってはおもしろくなかったかもしれないよ?」
「え……?」
「あの子のことを擁護するつもりは全然ないけど、伊織くんのことが好きだってわかってたなら、あの場に来て当然だと思うし。利用されてるように見えても仕方ないと思う」
「り、利用? 俺が……ですか?」
「うん。あまねくんも言ってたけど、気持ちがないならはっきりさせてあげた方が本人のためだと思う。私も今回そう思ったからはっきり言わせてもらうけど、伊織くんとは今後連絡取る気はないよ」
「え……?」
スマホの向こう側で小さく聞き返された。
「あまねくんが送ったメッセージは、勝手に送ったものじゃないよ。私は束縛なんてされてないし、いつも彼は私のことを一番に考えてくれてるの。だから、彼といられて幸せだし、伊織くんには主人のことを誤解されたくないの」
静かにそう言った。あまねくんに聞かれるのは恥ずかしいので、私は寝室にこもって1人、伊織くんと会話をしている。
「ご、誤解なんて……。真緒美ちゃんに対して少しきつい言い方に思えたので、まどかさんにもそうなんじゃないかって心配になったんです。まどかさんはちょっと黙っててって言ってたし……」
「ううん。主人は、私にはきつい言い方なんてしないの。だだ、男女関係なく私のことを傷付ける人に対してちょっと冷たくなっちゃうというか……」
「まどかさんが凄く想われてるのはわかりますよ。ですけど、そんなに嫉妬深いのは疲れるんじゃないですか?」
「ううん。全然そんなことないの。私がね、あの人じゃなきゃだめなの」
「……まどかさん」
「好きでいてくれるのも、旦那さんでいてくれるのも、お腹の中の父親も、彼じゃなきゃだめなの。だから、いくら他の人が好意をもってくれても、主人以外の男性を好きになることなんて絶対にない。それに、彼が不安になることもしたくない。伊織くんと友達としてでも連絡をとってることは、主人にとっては好ましいことではないから……」
私がそこまで言うと、彼はぐっと一旦黙り「で、でも俺と連絡取ってれば奏ちゃんだってもっと人気者になれると思いますよ」と言った。
「ねぇ、伊織くん。私ね、そうやって奏ちゃんの名前を出すことも卑怯だって思うよ」
「まどかさん……?」
「だって、それって伊織くんなら奏ちゃんの人気を下げることもできるってことでしょ?」
「それは……」
「それって私に対する脅しだよね?」
「ち、ちがっ……俺は、まどかさんに喜んでもらいたくて」
「私が嬉しいって思うのは、伊織くんが贔屓なんてしないで奏ちゃんが自分の力で人気者になってくれることだよ。私のおかげで仕事が増えてもあの子は喜ばない。本気で頑張ろうとしている子に対して凄く失礼だと思う」
「そんなこと言わないで下さい! 奏ちゃんはまどかさんの身内だって知る前から、魅力的なモデルさんだって思ってたんです! まどかさんの脅しの道具に使うために番組に呼んだわけじゃありません!
俺だって仕事は遊びでやってるわけじゃないので、売れる可能性のない子に長時間の番組を与えたりしませんよ!」
彼は心外だとでも言いたげに声を張り上げた。
「そう思うなら、私や主人のことは関係なく真剣に彼女と向き合ってあげて。私は、卑怯なことをする人は嫌いなの。
今回、奏ちゃんに大きな仕事を与えてくれたことには感謝してるよ。でも、奏ちゃんを盾に私と会おうとするのはもうやめてほしい。食事会も主人が一緒だったから行ったけど、主人以外の男性と2人きりになるつもりはないの」
「そんな……別に変なことなんてしませんよ?」
「それでも、嫌なの。少しでも主人が不安になるようなことはしたくないの。だから、もう私のことは忘れてほしい。私はもう結婚して子供がいるの。他の人の奥さんなんだよ」
その言葉に伊織くんは「何で旦那さんを選んだんですか?」そう尋ねた。
彼の声は少し震えていた。
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