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私は操作を終えたスマホの画面を消してから、1階へと降りて行った。
珍しくテレビをつけていて、バラエティー番組からお笑い芸人達の笑い声が溢れている。その向かいのソファーに座るあまねくんは、足を組んで背中を背もたれに預けてスマホの画面に目を向けていた。
全くテレビに関心を向けていないあまねくんへと近付いていく。
私の気配に気付いた彼は、顔を上げてふっと困ったように笑う。
「終わった?」
「うん。連絡先ブロックした」
「そう」
あまねくんは、そう言って柔らかく微笑むと「お疲れ様」と続けた。
そのまま再びスマホに視線を向けようとするあまねくん。私はそんな彼の膝の上に正面から向き合って跨がる。
「……まどかさん?」
自然と組んでいた足が解かれ、あまねくんは顔を上げる。その首に腕を回し、ぎゅっとしがみつく。
「え? な、何……? すげぇ可愛いんだけど……」
耳元でそう呟き、彼は私の腰を抱く。少し出てきたお腹がつっかえて、昔のように密着はできないけれど、あまねくんの体温を近くに感じる。
「伊織くんと連絡取るの嫌でさ、お断りしたけど、私嫌な女なのかなぁってちょっと思ったり……」
「そんなこと考えてたの? 嫌な女なわけないでしょ。ちゃんと電話してお断りした分、誠実だと思うよ」
「そうかな?」
「そうだよ。それに、嫌な気持ちにさせられたことには変わりないんだから。まどかさんが気に病むことなんてないの」
「うん……あまねくんにそう言ってもらいたくてきた」
「ふふ。何それ、可愛いね」
「あまねくん、好き」
「俺もまどかさん好きだよ。誰よりも1番愛してる」
「うん……もしね、まだ臣くんと付き合ってる時、あまねくんじゃなくて伊織くんと出合ってたらって考えたんだ。でもね、その後にあまねくんに出会ったら、きっとやっぱり私はあまねくんを好きになったんだと思うんだ」
「んー? どういうこと? 出会う順番が違っても俺を選んでくれたってこと?」
「うん。やっぱり私にはあまねくんがいなきゃダメだと思うんだ」
「それは俺だって同じだよ。俺、まどかさんがいないと困る。わかるでしょ?」
「うん。ずっと一緒がいいね」
「もちろん、一緒でしょ。今回みたいにまどかさんに近付こうとする男が現れても、何回だって追っ払ってやるからね」
そう言ってあまねくんが笑う。私もそれにつられて笑い、少し体を離して彼の額に私の額をくっつけた。
至近距離で彼の綺麗な瞳を見つめる。濁りのないその瞳は、私と同じように視線を捕らえる。
「私も。あまねくんと一緒にいられるなら、悪女だって思われてもいいや……」
「ん。まどかさんの魅力は俺だけが知ってればいいんだけどね。ただ、魅力的過ぎるから、隠しきれなくて色んな男がそれに気付くんだろうね」
「それはあまねくんでしょ。一緒に歩いてると、そこら辺の女の子は皆あまねくんに振り返るよ」
「そりゃそうでしょ。まどかさんの隣を歩く俺、幸せオーラだだ漏れなんだよ。幸せを感じてる人間って魅力増して見えるらしいからね」
彼は肩を震わせてクスクスと笑う。
「じゃあ、私も魅力増して見えてるのかな?」
「ね。俺達、幸せ過ぎるから幸せに飢えてるのが寄ってきちゃうのかもね。迷惑な話だけど」
「うーん、それは迷惑だね」
未だ至近距離で会話を進める。その内、おかしくなって、2人で大きく笑った。
鼻先で頬をつつかれ、身を捩れば軽く唇が重なった。暖かい彼の温もりを求めるかのように更に唇を寄せれば「今日は甘えん坊だね」そう言って、たくさんの優しいキスを彼からもらった。
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