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お正月に千愛希さんと会った時には何も言っていなかったのに、こんな話が進んでいたとは驚きだ。
「でも、奏ちゃんも律くんも交えてってことは、千愛希さんと律くんは変わらず仲良しなんだね」
「何? 2人なんかあったの?」
「いや、なんかあったって程のことじゃないんだけどさ。千愛希さんが私のファンでいてくれたことで結構興奮してたからさ。それ見て律くんがちょっとね……」
「ああ、完全にりっちゃんは引いてたよね。でも、どうだろうね。最近はりっちゃんの方が気にし始めてるみたいだけど」
「え!? そうなの!?」
あの他人に興味のなさそうな律くんが!? そう思って反射的に身を乗り出す。あんなに付き合うのはないとか言ってたのに……。
「千愛希さんって凄い忙しい人なんでしょ? アプリ時々作りながら社長秘書もやってるって聞いたし」
「ああ……そんなこと言ってたっけ」
「うん。だから社長とのアポ取りとか、スケジュール管理とかも全部やってるみたいでさ。社長が仕事の時は自分も仕事だから、仕事が重なると全然連絡取れないみたいで」
「へぇ……でもなんか仕事できそうだもんね、千愛希さん」
「うん。普段あんなんだけど、相当頭良いと思う」
「そうだよね。パソコンの詳しさ半端ないし……」
「ね。りっちゃん昔からモテるし、ずっと追いかけられてばっかりだからね。放っておかれるの慣れてないんだよ」
「え? 律くん、あんまりそういうの気にしなそうなのに……」
私は口元を押さえて奏ちゃんを見上げる。彼女はおかしそうに笑って「そんなことないから。りっちゃん、面倒見いいでしょ? 自分の方が優位にいないと気に入らない人だからさ。自由奔放な千愛希さんに振り回されて思い通りにいかないから気になってしょうがないんだよ」と言った。
「意外……。それはそれって割りきりそうなタイプに見えるのに……」
「全然! それに千愛希さん、まどかちゃんにちょっと似てるからさぁ、余計に気になって……」
奏ちゃんはそこまで言うと、はっと顔を上げて笑顔を消した。その瞬間、顔を強ばらせた。
「……どうしたの? 私に似てると気になるってどういうこと?」
「え? ああー……ほら、弟のお嫁さんだしさ、より親近感を抱くというか」
「ああ、そういう事。確かに律くん優しいし、よくしてくれるしね」
「そりゃ、まどかちゃんだからね」
「え?」
「え? あ、なんでもないよ。知らない方がいいこともあるからさ。あっくんにはくれぐれも言うんじゃないよ」
「へ!? 何を?」
「いいの! まどかちゃんはあっくんと仲睦まじく夫婦生活を送ればいいの。りっちゃんもようやく前を向こうとしてるわけだから」
「前……?」
「……仕事以外のことに目を向けるってこと!」
そう言って奏ちゃんは私から目を逸らした。よくわからないけれど、私と千愛希さんが似てると何かがあるらしい。
奏ちゃんは、私やあまねくんが知らない律くんを知っているようだけれど、「今のは忘れて」と言われてしまったため、それ以上深くは聞けなかった。
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