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姉とは出産後何度か会ったが、ずっと子供が泣き通しで大変そうだった。しかし、タフなのかベテラン母の如く家事に育児に励んでいた。
私はああはいかないだろうなと姉を見て思ったのを思い出す。ちなみに姉の子供は尊瑠と名付けられた。
名前を考えるのも楽しそうだけれどそれで人生左右されるのも可哀想だ。親の役目として重要だなぁと感じる。
いずれはお腹の子に名付ける身としては是非色々と参考にさせていただきたいものだ。
「私もできたら男の子も女の子も両方ほしいので羨ましいです」
「やっぱりそうですよね。私の友達は3人とも女の子なので皆お嫁にいっちゃうって今から落ち込んでます」
栞さんは苦笑しながらそう言う。
「可愛いでしょうけど3人産んで全員女の子はちょっと悲しいかも……」
「ですね。まどかさんの方はどっちですか?」
「それが、まだわかんないんです。もうわかってもいい筈なんですけど、ぎゅっと足を閉じちゃってて……」
「あらあら……ちょっと残念ですね」
「エコーが嫌なのかな? 主人はもう絶対女の子だって言い張ってるんですけどね」
「え? まだ性別わかってないのにですか?」
栞さんは目をぱちくりさせて、ちらりとあまねくんの方に目をやる。私はおかしくて、くすりと笑うと、隣のあまねくんが「どうかしたの?」と大崎さんとの話を途中にこちらを向いた。
「ううん。何でもない。今、栞さんと妊婦同士の話で盛り上がってるの」
「そうなの? それじゃあ、お邪魔だね」
彼は肩をすくめて笑いながら大崎さんの方へ視線を戻した。
私と栞さんはそんなあまねくんを見て、もう一度笑った。
「お子さん、お名前なんていうんですか?」
「この子が朔斗で、こっちの子はまだ考え中です。女の子の名前を考えるのが楽しくて全然決められないんです。でも、お腹にいる内から名前で呼んであげたい気持ちもあって早く決めなきゃなぁとは思ってます」
「朔斗くん、カッコいい名前ですね」
「主人がつけたんです。男の子なら俺がつけるって聞かなくて。その変わり、女の子は私に権利があります」
栞さんはそう言いながらも嬉しそうだ。旦那さんがつけたとはいえ、きっと栞さんも納得して名付けたのだろう。
「じゃあ、可愛い名前をつけるのが楽しみですね。私はまだ性別がわからないのでなんとも言えないんですけど……でも、私も女の子がいいなぁって思ってます」
「そしたら是非仲良くしてほしいです。きっと女の子同士の方が仲良くなれるだろうし」
「そうですね! こんなに立派な豪邸じゃないですけど、よかったらまた家にも遊びに来て下さい」
こんな言い方をしたら家を建ててくれたあまねくんに失礼だけれど、さすがにこの家は比較対象ではない。相手は億万長者の奥様なのだから。
それでも私はあまねくんと暮らすあの家が好きだし、あまねくんの趣向もたくさん詰まっていて癒されるのだ。色んな人に遊びに来てもらいたい気持ちもあった。
「え? いいんですか!?」
「もちろんですよ。大した振る舞いはできないですけどまたお話できたら嬉しいです」
「是非是非! わぁ……嬉しいです」
栞さんは歯を出してにっこりと笑う。こんなに喜んでもらえると私も嬉しい。なんて素敵な食事会なんだろうか。
大崎さんと千愛希さんと奏ちゃんは仕事の話をしているし、経営者の話に興味があるのか、あの律くんも珍しく会話に参加している。
あまねくんは、相変わらず誰とでも分け隔てなく笑顔で会話に加わるし、会場の雰囲気は最高である。
千愛希さんがこの家によく遊びに来るのもわかる気がした。なんたって居心地がいいのだ。清潔感のある豪華な家に、お洒落な食器に美味しい食事。そして人当たりの良い夫婦に品のある会話。
まさにリア充という言葉がピッタリである。
予期せぬところでお友達ができ、私は久しぶりに初対面の人間との会話を楽しいと思えた。
やはり出産したばかりとはいえ、姉とは違う距離感での会話ができる。それに、姉の子とは同級生にはなれない。
栞さんは4月7日が予定日だというので順調に予定日に産まれてくれるのを願うばかりだ。
周りがどんどん出産を迎える中、私の出産予定日5月5日を余計に待ち遠しく感じる。
次の検診では性別がわかるといいなぁと思っていると、お腹の中でぽこぽこと動く。
頼むよ、赤ちゃん。パパが毎日待ち遠しくてたまらないって顔してるんだから。
そんなパパは未だにこの子の胎動を感じられないまま。もう結構活発に動いているのに、だるまさんがころんだでもしてるみたいにあまねくんが触ると動かなくなる。
パパをからかって遊んでいるのかと思うと、それはそれで可愛くて笑えた。
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