親友の悩み

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 出血は3日程続いたが、その後は何事もなく経過していった。  あれから2週間が経ち、奏ちゃんが実家に帰ってくるということで私は彼女の実家に足を運んだ。  あまねくんは仕事中。久しぶりにダリアさんとおばあちゃんにも会えて、気分は上々だ。  奏ちゃんが帰宅すると、その美貌にうっとりする。ああ、律くんに似てる。でも、綺麗。可愛い……。  私の妹になった奏ちゃんは、パリのコレクションに出演した。全部で8つのショーに出ることができたそうだ。  ダリアさんがパリの友達に頼んでそのショーを動画に収めてくれてあった。色んな国に友達がいるなんて、さすがダリアさん。  ダリアさんの美貌だって健在で、一緒にいるだけで素敵なオーラを分けてもらった気分になる。  おばあちゃんは、時々私の名前がわからなくなるけれど、あまねくんのお嫁さんだよと言うと、喜んでくれる。  お腹を優しくさすってくれ、「元気な赤ちゃんが生まれますように」と願掛けまでしてくれた。  皆で奏ちゃんの動画を見る。普段の奏ちゃんしか知らない私は、彼女のウォーキングを見て感激した。  カッコいいなんて言葉だけじゃ足りない程だった。 「どのモデルさんよりも奏ちゃんが一番カッコいい!」 「前にもそんなこと言ってなかった?」    すぐに照れ隠しをする奏ちゃんは、私と視線を合わせようとはしてくれない。 「ねぇねぇ、この前の雑誌のやつさ、どうなったの?」 「どうって?」 「ページ増える?」 「増えないよ。前回かなり載せてもらったし」 「えー……」 「でも、オファー殺到してるんだ。CMとか」 「CM!?」  奏ちゃんがテレビに出る! そう思ったら、走り回って飛び跳ねて、喜びを表現したいと思った。  彼女には全力で制止された。 「他にもテレビ出る!?」 「うん。予定ぎっしりなんだ」 「えぇ!? じゃあ、全部録画しなきゃ!」 「いいよ、しなくて」 「嫌だよ! 奏ちゃんが出るやつは全部くまなくチェックしなきゃ!」 「……それ、やってることあっくんと一緒だよ?」  そう言われてはっとする。  確かに……。で、でも、私は録画するだけだし……あんなふうに写真に収めたりしないし。  あのコレクションの存在を知ってから、私は怖くてあのクローゼットを開けられずにいた。  しかし、エコー写真も欲しがったりするものだから、ようやく私よりも赤ちゃんに興味をもってくれたと思ったのだけれど、「まどかさんのお腹の中まで見れるなんて神秘的だね」なんてわけのわからないことを言っていた。 「私は、あんなに酷くないよ!」 「酷くないって……。散々な言われよう」 「だ、だって……」  奏ちゃんにはさすがに言えない。あのコレクションは、本来あまねくんだけの秘密だから。 「まあいいや。子供も順調みたいだし。私、あっちに帰ったらもう暫く戻ってこれないと思う」 「えー!!」 「まあ……たまには戻ってくるから、その時は連絡する」 「うん! ねぇ、結婚式はきてくれるでしょ?」 「そこはちゃんと休みとるようにするよ」  奏ちゃんは、ふっと微笑んで頷いた。その反応に安堵し、再来月に控えた結婚式が待ち遠しい。  準備は忙しなくて大変だったけれど、招待状の返事も揃ったし、本当に細かいところを見直すくらいでいい状態となっていた。  ただ、喧嘩したままの茉紀のことは気がかりだった。ハイジさんとのことはこの際どうでもいいとして、茉紀と気まずいまま結婚式に招待するのは嫌だった。  もう少し落ち着いたら、ちゃんと謝ろう。奏ちゃんの笑顔を見て、心穏やかになると、素直に謝罪をしようという気になれた。 「奏ちゃんは、古河先生どうするの?」 「どうって? 別に変わんないよ。朋くんはこっちで仕事続けて、私は東京戻るし」 「寂しくないの?」 「今はやりたいことあるからね。僕が寂しくて耐えられなくなったら、東京に移住しようかなって言ってたよ」  奏ちゃんは、ははっと笑っているが、とても幸せそうだ。あの優しい古河先生のことだから、奏ちゃんがやりたいように自由にさせてあげているのだろう。  彼女の魅力は、自由があってこそ増す気がする。 「奏ちゃんの結婚式も呼んでよね」 「またその話。まだまだ結婚はしないって。朋くんも30過ぎてからでもいいかなぁって言ってたし」 「そっか。30歳でもまだ1年以上あるもんね」 「そうそう」  奏ちゃんは、ジャスミンティーを飲みながら頷く。周りの人生もちゃんと動いてるんだなと、久しぶりに家から出て人と会うと実感する。ずっと家にこもっているのもいい加減飽きてしまったし、こうして誰かに会うのは、いい刺激になるのだった。
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