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翌日の土曜日、私はあまねくんと産科へ定期検診に来ていた。
赤ちゃんの体勢によっては今日、性別がわかる。早く知りたいような知りたくないような。
旦那さんは女の子だと信じて疑わないため、どちらでもよさそうだけど。
名前を呼ばれるまで、気持ちは落ち着かない。いつも一緒に検診に来てくれるあまねくん。先生からも赤ちゃんに対して前向きでいいパパですねと好感をもたれている。
それでなくてもモデル体型で美形のあまねくん。どこに行っても女性達が熱い眼差しを向けてくる。そんな場面も見慣れてきている私は、それなりに守屋周の妻をやれているらしい。
「緊張してきた……」
「ん? でも、赤ちゃん元気に動いてるでしょ?」
「そうだけど、性別。今日わかるかもしれないから……」
「ああ、だから女の子だってば」
「またそんなこと……」
やっぱりそんなことを言う。あまねくんには、このドキドキする気持ちがわからないのだろうか。
「本当だよ。絶対女の子」
お母さん向けに置かれていた雑誌を開きながら、あまねくんはふっと微笑む。何だか冗談で言っているようにも見えず、かといって理想だけでそんなことを言っているようにも見えなかった。なぜかいつも自信満々に「女の子だよ」と言い張るあまねくん。
「……なんでそう思うの?」
「んー……? んーとね、会いに来てくれたから」
「は?」
あまねくんのおかしな発言に、私は低くおじさんのような声が漏れた。
「はは、そんな顔しなくても。……夢でね。3ヶ月くらい前だったかな。家族写真を眺めてる夢。俺とまどかさんと、女の子。あと、男の子」
「はぁ……」
「男の子の方が小さかったから多分2人めは男の子だね」
「それ、夢の話だよね?」
「うん。夢の話。でも、まどかさんに似たすっごく可愛い女の子だったよ」
夢の話だってわかってるのに、そんなことを言われたら気になって「……男の子はどっちに似てる?」と聞いてみた。
「んー……、んー? 俺かなぁ? いや、でもまどかさんにも似てるよ」
「えー……ちっちゃいあまねくんがよかった」
「さすがに生き写しみたいのは無理でしょ。でも、男の子も可愛いよ。よかったね。男の子も女の子も両方欲しいって言ってたじゃん」
「言ったよ。言ったけどさ……あまねくん、夢の話だよね?」
「そうだよ。だから女の子だって」
堂々巡りできりがない。平然とした顔で彼が言うものだから、私の方がおかしなことを言っているのかと錯覚しそうになる。
夢と現実は違う。わかっている筈なのに、何故か自信満々の旦那様が解せない。
その内に「守屋まどかさん」と名前を呼ばれ、顔を上げた。あまねくんと一緒に案内され、エコーを見てもらった。
「順調ですね。元気ですよー。動くことも多くなったでしょ?」
「はい。とても。活発で最近は声をかけると動いてくれるようにもなりました」
「うん、うん。いいですね。前回はちょっと恥ずかしがってたみたいなのでね。今日はよさそうですね」
「あのー……どっちかわかりますか?」
「そうですね。知りたいですか?」
「知りたいです!」
私はぱっと目を見開いて先生を見上げる。
「お父さんはどうですか」
「そうですね、知りたいです」
あまねくんは、その場でにっこりと笑った。
「ちなみにどっちがいいとかありますか?」
「えっと、女の子……」
「そうですか。おめでとうございます。女の子ですよー」
先生は、そう言って笑った。
うそ……本当に女の子だ。まあ、確率は2分の1だけど……。それにしたって、あまねくんとの会話の後だからか、何だか不思議な感覚だった。
今後の流れを説明され、次の検診日を決めると、私達は待合所へ戻る。
ソファに腰かけた途端、あまねくんは「ね?」と言った。彼は、さも当然と言ったような顔をしていた。
「……何で?」
「んー? 昔から、いいことがある前は夢見ることがたまにあるんだ。運動会の短距離で1位になるとか、大学受験受かるとか、顧客の融資が上手くいくとか」
「え? 予知夢……?」
「さあ? わからない。悪い夢は外れることもあるから。でも、今回は当たりだと思ってた」
「……なんで?」
「んー、ママに待っててって言っといてねって伝言頼まれたんだ」
あまねくんは、ふんわりと笑う。
なにそれ、不思議過ぎる……。
「夢の中で?」
「うん。先生からちゃんと性別聞かされるまで黙ってようと思って」
「ほ、本当に私に似てる?」
私は、あまねくんの服の袖を掴んで尋ねた。
「そりゃもちろん。可愛いよ」
「……名前は?」
「まどかさんが決めたらいいよ」
「名前はわからないの?」
「んー? 内緒」
「えぇ!?」
あまねくんが奇妙な話をするから、私はその続きが気になって仕方がない。もしも彼が、お腹の子の名前を知っていて私に決めていいよと言ったとするならば、私が選んだ名前は夢の子と同じになるということだろうか。
まるでファンタジー映画でも観させられているみたいで、私の胸は期待で膨らむ。
心の中で、パパに会いに行ったの? とお腹を触りながら聞けば、お腹の中でポコポコと動いた。
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