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「離婚!?」
思わぬ茉紀の言葉に私は大声で叫んだ。茉紀はぐっと眉を真ん中に寄せて「声がでかい」と言った。
「ご、ごめん……。まさかそんなことになってるとは思ってなくて……」
ハイジさんの話では、茉紀が旦那さんのことを大好きで子供達と離ればなれになっても踏ん切りがつかないなんていう状況だったはず。
その茉紀が離婚を決意するだなんて意外だった。
「そう? え? 普通2択じゃないだ?」
「だってあんた、旦那さんのこと大好きなんでしょ?」
「は? そんなことあるわけないじゃん。前から言ってんじゃん。次に子供できたらアイツの子じゃないって」
「……はあ? あれ本気だったの?」
「もちろん」
「じゃあ、麗夢は? 授かったってことはそれなりの営みをしたわけでしょ?」
「まあね。どうしても女の子が欲しかったから排卵日だけに的絞って的中だよ」
「え? すご……そんな簡単に子供できんの?」
私は、うどんをほぐしながら顔をしかめた。
「できる気したもん。そりゃ中には望んでもできない人もいるけんさ。私は望んでない時に光輝ができたんだよ? しかも別れるだ別れないだの話をしてる時」
「……そうだっけ?」
「そう。そん時もアイツの浮気が原因で別れる決意をしたわけ。そしたら子供いることわかってさ。1人で育てるの無理だから、認知だけして養育費ちょうだいって言ったら、向こうの親がそんな形だけのことさせられるわけないじゃないってさ」
「……聞いたことある」
「そうだよ。それで散々揉めて結局結婚しただよ」
「その間は浮気なかったの?」
「あったよ! これで3回目。今までは育児疲れとかもあってとても争う気にもなれなかったから泣く泣く許す形になったけんさ。もう今回ばかりは無理。アイツからも相手の女からも慰謝料もらうつもり」
「よく許したじゃん! 3回って……知らんかったよ。そんなことがあったなんて」
「許したっていうか、離婚の話は何度もあったけん、離婚は世間体が悪いからやめろって相手の親に言われたんだよね。女は一度嫁いだらどんなことがあっても主人についていくことですなんて言われてさ」
「は!? 何それ」
前々から思っていたけれど、茉紀の旦那さん側の家族は変わっている。私だったらきっと耐えられなかっただろう。
「少しばかりの気持ちだからって100万渡されてさ」
「ひゃ、100万!?」
「アイツは稼ぎないけど、実家は金あんだわ。だから私が嫁ぐのも反対だったわけ。まあ、私はそこそこ頭がよくて学歴はあったから? 渋々認めたってところ」
「おお、自分で言うね……」
「言うでしょ。だってアイツ、商社落ちて子会社の営業所にいったようなやつだよ? バンバン出世して稼ぐならまだしも、だらだら仕事してろくに稼ぎもしないくせに一丁前に浮気だけはするんだから」
「……あんたの旦那、モテるよね?」
「昔からね。顔はそんなによくないくせに調子だけはいいからさ。逆にあまねくらいのイケメンだったらこっちもしょうがないかなぁって思うけんさ、あの程度の男に浮気されてたかと思うと腹立たしくてしょんないよ!」
随分ご立腹だ。そりゃそうだろう。家事も育児もしないで給料も茉紀の方が上で、浮気までされて……。
「私だっていくらあまねくんがイケメンでも浮気されたら嫌だよ……」
「あんたんとこはないでしょ。あまねの方が惚れてんだから」
「そんだけ愛情感じる分、裏切られた時のショックが大きいと思うけど」
「まあね。って、あんたまだ新婚で何言ってるだ? 今日はね、あんたのノロケを聞きにきたわけじゃないだでね!」
そう言って箸の先を私に向けた。これは長くなりそうだ。そんなに鬱憤が溜まっているならもっと早く話してくれたらよかったのにと思えてならない。
「それで、上手く離婚できそうなの?」
「無理だら。泥沼だよ。あんたハイジさんからどこまで聞いた?」
そう言われてギクリとする。この言い方は、ハイジさんからどこまで話したかの報告がいっていないということ。間にハイジさんが入ったことで、旦那さんに会ったことやハイジさんとの会話など、お互いに認識していない部分があるに違いない。
「どこまでって……私もどこまで本当でどこまで嘘かもうわかんないよ。ハイジさんも言うこと適当だもん。何か子供と離ればなれになって、実家戻ったけど茉紀は旦那さん大好きだから離婚はないって聞かされてたし」
私がそう言うと、茉紀は二度瞬きをしてあははと大きく笑った。
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