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親友の悩み
快晴の中、浮き立つ心で先程もらったエコー写真を眺める。
医師に教えられた胎児の姿を見ては、笑みが溢れる。
「まどかさん、ちゃんと前見て歩かないと転ぶよ」
眉を下げてこちらを見るのは、愛しい愛しい旦那さん。
私と彼は、様々な困難を乗り越えて結婚まで辿り着いた。そして、私のお腹の中には彼との子供がいる。
私の夫であるあまねくんのマンションに一緒に住むようになり、街中での生活が主になった。
独身時代に一人暮らしをしていたアパートも、実家も静岡市の田舎だ。しかし、街中の税理士事務所に勤める彼は、比較的職場から近いところに住んでいた。
そのため、通院している産科も静岡駅から徒歩で行けるところにある。
せっかく引っ越しと共に車を持ってきたのだけれど、車を使わずとも生活ができてしまうため、すっかり都会気分を満喫している。
本日は土曜日であり、あまねくんも休日のため、一緒に定期検診へ行ってきたところだ。
妊娠12週目に入り、少し気分的にも落ち着いた。とはいえ、私はつわりもそれほど酷くはなかった。食べづわりというらしく、空腹になると気持ち悪くなる。そのため、少量ずつ口に含んでは空腹にならないよう常に何かを食べて過ごしていた。
そんなつわりも今ではほとんどなく、快適に過ごしている。
「だって今までエコー見ても全然わかんなかったのに、ちゃんと赤ちゃんの形してるんだよ!」
初めてエコーを見せられた時には、何がなんだかわからなかったものだから、妊娠した嬉しさはあったものの、どこか物足りなさを感じていた。
それが今日受診してみれば、ちゃんと人間らしい形をしている我が子。これが喜ばずにいられるわけがない。
「わかるよ。俺だって感動したし。でも、危ないからね。こんなところで転んだりしたらエコー写真どころじゃないよ」
「まあ……そうなんだけど」
街中を二人で歩きながら、そんな会話をする。それでもエコー写真に目をやれば、体に対して大きな頭が可愛く見える。
「順調でよかったね。つわりも落ち着いてきたし」
「うん! 私も元気だよ」
あまねくんがこうして一緒に検診に来てくれることが嬉しい。一人で行くのは心細いし、一緒に行けば嬉しさが倍増する。
彼の腕に掴まり、体を寄せる。妊娠してから危ないからと高いヒールの靴は履かなくなった。それにより、長身の彼が余計に大きく見え、出会った時よりも遠くなってしまった顔にほんの少しだけ寂しくなる。
「うん。安定期まで一ヶ月もあるって思うとまだまだ安心できないけどね」
「でも、外に行く時はあまねくんが一緒にいてくれるし、安心だよ」
「そりゃ心配だからね。家の中でじっとしてるの退屈じゃない?」
「家の中にいたらいたでやることあるだよね」
掃除に洗濯に、結婚式の準備。安定期に入って落ち着いたら挙式をする予定だ。考えることも多く、決して暇ではない。
「無理しないでよ?」
「大丈夫。それに……」
言いかけて、ふと言葉を止めた。車道を挟んだ向こう側に見知った顔を見つけたからだ。
「まどかさん? どうし……あ……」
足を止めた私に、振り返ったあまねくんが、私の視線を追って同じように足を止めた。
「ハイジさん?」
「……茉紀も一緒だよ?」
何で午前中のこんな時間に二人が一緒にいるのだろうか。私の親友である茉紀と、あまねくんが仲良くしているバーの店長であるハイジさん。
三人でハイジさんの店へ行き、ワイワイ騒ぐこともあったけれど、いつからか気になっていた茉紀のこと。
やたらとハイジさんの店に行きたがり、時には一人でも店に通っている様子だった。
いつの間にか親密そうな彼女達の様子に、落ち着かない気持ちになる。
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