そして、アルベールは笑った。

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「俺には好きな人がいます」  そしてロアは、カップを持って――くるりとこちらを振り向き。 「アルベール・リアライズ!俺と、付き合ってくれ!!」  とんでもない、ことを言った。  ざわり、と観客達がどよめく。少年剣士が、愛の告白をするだろうということは誰だって予想していたはずだ。しかしまさか、よりにもよってそれがクラスメートの“同性”相手であったなんて。一体誰が、想像していたことだろう。  唖然としながらアルベールは――ようやく、何故ロアがこの大会に出て優勝しなければいけなかったのか、それを理解したのである。  今でこそカナンテ教を信仰する人は少なくなっているし、宗教の自由は町で認められているが。それでも、未だにカナンテの教えの多くは街に根付いているし、敬虔な信者も少なくない。そしてカナンテ教は、同性愛を“あってはならないもの”と禁じている。――未だに、この街で同性愛が差別される傾向にあるのは、そんな宗教の教えから人々が脱却しきれていないからなのだ。  だから、愛する人が同性であった場合。多くの者達が、その愛を押さえ込んで、涙をのんで生きていくしかないのである。人々の差別の目を避けるために。愛する人に、迷惑をかけないために。 ――ロアが、俺のことを……?  アルベールは――言葉を失った。ショックを受けたのは、親友と思っていた相手に恋愛感情を向けられていたことを知ったからではない。自分の無神経な言葉を思い知ったからだ。  当たり前のように女の子が好きだと思っていて、その名前を出してしまった自分を。彼は一体どう思っていたのだろう。 『あー……相手にも、友達としか思われていない、と』 『そうだよ!男として見てもらえてねーんだよ!こんな大会にでも出なきゃ絶対に成就しねーんだよお!』  友達としか、見ていない。そのつもりだった。  しかし、とアルベールは思う。よくよく思えば、自分は果たして本当に異性愛者であっただろうか、と。女の子に興味を持ったことはなかった。かといって男の子に興味を持ったことがあるわけではない、でも。  いつも見ていたのは、誰だっただろう。  恋愛とか、友愛とか、そういうことは何もわからないけれど――でも。一番一緒にいたいと願って、ずっと見つめていたその相手は。 「……ロア!」  正直。この感情が、どういうものであるのか自分には全くわからない。でも。 「付き合うって、お前は俺と何がやりたいんだ!」  だから、アルベールは立ち上がって問い返したのである。命懸けの戦いをこなし、人々の好奇の目という恐怖さえ乗り越えて――自分に告白するという選択をした彼に。  するとロアは。 「わかんねえ!ただ、友達から始めてくれればそれでいい!えっと、映画見に行ったりとか家でゲームしたりとかマンガ読んだりとか!!ただ俺が一番ずーっと一緒にいたい相手は、お前なんだー!」  大声で、それはもう恥もなにもなく叫ぶものだから。少しだけ抱いていた緊張が、その一瞬で全部吹っ飛んでしまったのである。 「ばーか」  だから思ったのだ。友愛なのか、恋愛なのか。そんなもの――これから少しずつ考えていっても、それでいいではないか、と。自分達にはまだまだ、無限の時間があるのだから。 「それ、今までとなーんも変わらないだろ!これからもずっと一緒にいるに決まってるんだから!」  アルベールは笑った。  人生で一番の笑顔で、笑ったのである。
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