そして、アルベールは笑った。

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そして、アルベールは笑った。

 カナンテシティでは、年に一度闘技大会が行われる。老若男女、誰でも参加できる大会だ。武器の使用自由、魔法の使用自由。ひとたび参加すれば命の保証はなく、大会の中で人が死んでも罪に問われることはない。お上品な上流階級の町と呼ばれるカナンテシティで行われているにしては、極めて野蛮なお祭りと言っても過言ではない。  それでも、参加を希望する者が後を絶たない理由は。 「ロア、お前はそんなに金が欲しかったのか?」  いつもの河川敷。幼馴染であり、同じハイスクールに通う少年ロアに、アルベールは呆れて声をかけた。 「お前がずっと戦闘訓練に勤しんでいたのは知っているが。まさか闘技大会に出る為だったとは思わなかったぞ。金には困ってないだろ」  茶髪のアルベールとは違い、金髪のロアの髪は月の光を浴びてキラキラと輝いている。一般的な“イケメン”とは少し違うかもしれないが、体が大きくて明朗快活なロアはいつもみんなの人気者だった。勉強と魔法しか取り柄がない自分とは違う、とアルベールは思っている。むしろ、ロアが手に入れられないものなどその学校の成績くらいのものだ。しかもそれだって、本人の生粋の勉強嫌いから来るものである。  家柄もそこそこで、お金に困っているわけでもない。だからこそ、アルベールは不思議で仕方ないのだった。闘技大会で手に入るものは、賞金と――“願いをみんなに叶えてもらう”という名誉のみ。大会で優勝した者は、カップを受け取ると同時にその場で一番の望みを言うことができるのである。  それが、よほど非常識なものではない限り。街の者達は総員で、その願いを叶えてやるべきという暗黙の了解があるのだ。絶対の規則ではない。それでも、どうしても叶わない願いを叶えるため、賞金とは別の理由で大会に参加する者が後を絶たないのは事実としてあるのである。 「俺と違って、ロアに手に入らないものなんかほとんどないだろう。精々、アリア語の授業で学年トップを取るとか、マーチア先生に睨まれないようにするとか、それくらいなものだ」 「おう、はっきり言ってくれるなアルベール!いやほんとのことなんだけどな!アリア語とか俺には模様にしか見えんぞ。カナンテ語だけ喋れたら生きていくのになんの問題もないってのにな!」 「世界の公用語相手になんて言い草だ。お前は大丈夫か、街の外に出たら嫌でも必要になるぞ、アリア語」 「この町から出る予定ない!問題ない!」 「あのなぁ」  あんまりにもいつも通りのロアに、アルベールは苦笑するしかない。むしろ、成績が悪くて一部の先生に睨まれている、が他の生徒達に親近感を覚える結果になっているのだろう。自分とは正反対だ。クラスで一番のイケメン男子、だなんて持て囃されることもあるが。だから女の子が近づいてくるかというと、正直全くそんなことはない。何故だか完全に高嶺の花扱いされている。まあ、ゆっくり本を読みたいならその方が有難いことも少なくなかったけれど。自分も別に、女の子にさして興味があるわけでないから尚更だ。
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