そして、アルベールは笑った。

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 ただ。フツメン扱いされながらも、いつも眩しい笑顔でみんなの中心にいるロアを見ていて――時々ひどく、羨ましい気持ちになるだけである。自分はけして、彼のように生きることはできない。自分が持っていないあらゆるものを彼は持っていて、その力を分け隔てなく公共の利益のために役立てることができる彼。  幼い頃からの、自慢の親友だった。そんな彼が愛されているのは嬉しい半面、どこか引け目を感じてしまうのも事実ではあったのである。ロアは自分が一人でいても、タイミングを見計らっていつも声をかけてくれるけれど。自分と一緒にいる時間を、他の誰よりも選んでくれていることは知っているけれど。本当にそれでいいのか、なんてことも思ってしまうのである。  ロアだって、こんな暗くて小難しいことしか言わない文学少年と話をしているより、アウトドア派な他の男子達と外で遊んでいる方が楽しいに決まっているのである。幼馴染というだけで、彼の貴重な時間を自分が当たり前のように奪ってしまっているのではないか。ずっと、アルベールはそんな罪悪感を抱き続けてきたのだった。  それゆえに。 「お前が欲しいのは、“願いを叶えてもらう名誉”の方か?」  ピンと来たのだ。彼が何故、大会出場を決意したのか。事実、その言葉を口にした途端ロアの動きはピシリと固まった。なんとまあわかりやすい男であろうか。 「で、誰に告白するつもりなんだ。メアリーか?ジュディか?」 「な、な、なんでその二人になるんだよ!他にもいるだろうがっ……って、あ」 「ほら、墓穴」  今までの傾向を見ていればわかることだ。闘技大会で優勝した者が言う願いには――愛する者への告白、が圧倒的多数を占めているということを。  どうしても叶えたい、願い。それに恋愛の成就を掲げる者は非常に多いのだ。特に、どうしても告白したい相手がいて、踏み切れないからこそ大会に優勝してそれを伝えようという者が少なくないのである。なんせ、優勝者の願いは“基本的に叶えられる”。恋愛の成就は、優勝した時点でほとんど決まっているようなものなのだ――まあ、優勝者と付き合うことになった恋人が、長続きするかどうかは別として。 「本当に告白のつもりだったのか。そのためだけに大会に出るとは」  アルベールはやや唖然として続けた。何故なら。 「誰に告白するつもりか知らないが、お前フツメンのわりに女子に大人気なんだって自分でも知ってるだろ。誰に告白したって大抵通るだろう、お前なら」 「しれっとフツメン言うな!……うう、お前はわかってない。俺は人気者ってヤツかもしれねーけど、大抵のヤツにはな……“友達”として大人気ってことなんだよ……」 「あー……相手にも、友達としか思われていない、と」 「そうだよ!男として見てもらえてねーんだよ!こんな大会にでも出なきゃ絶対に成就しねーんだよお!」  ちっくしょー、と言いながらロアは川に小石を投げ入れる。ぽちゃん、という水音と共に川面で月が踊った。  ロアらしい、と言えばらしいのかもしれない。確かに彼の周囲にいる女子達は、ガールフレンドというより“男の子と同じような友達”という印象だ。だからって、命懸けの闘技大会に出ようという神経は正直理解できないが。  既にエントリーはされている。彼の意思は、固い。ゆえに親友として、アルベールが言える言葉は一つだけなのだ。 「……ロア、死ぬなよ」  優勝して欲しいとは思う。彼にそこまで思われる人と彼がカップルになってくれるのなら。きっとロアを、幸せにしてくれるに決まっているのだから。でも、それ位所に。 「優勝よりも、何よりも。命を落とさないことを優先してくれ。でなかったら、絶交するからな」 「うわ、そりゃ一大事だ」  死んで欲しくない。生き残って欲しい。  大きな怪我なく生き残ってくれるなら――自分はそれ以上に、何も望まないのだ。
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