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賞金と、願いを賭けた闘技大会。
元々運動神経が良い奴なのはわかっていたが、想像以上にロアは頭も使えるファイターであったようだ。彼の試合全てを会場の特等席で見ながら(なんとロアが予めアルベールのための席を用意していたのだ。どうしても自分の勇姿を見せつけたかったらしい)、アルベールは心底感心させられていた。
一人でこなす試合は、今回はトーナメント方式で全六回戦。一回でも負けたら終わり、な過酷なルールだ。勝利は、お互いが運営に渡された金色のバッジを奪い合う方式で行われる。相手のバッジを奪うか、あるいは破壊することで勝利というわけだ。怪我なく降参したい場合は、素直にバッジを渡せば終わりというわけである。バッジは、必ず目に見える場所につけなければいけないルールがあるが、目に見える位置ならばどこであっても叶わない。腕でも足でも胸でも背中でも問題ないというわけである。
――ロアは、腰の左にバッジを付けたのか。腕で庇いやすく、自らも視認しやすい。いい位置だな。
腕で庇う場合も、左手を使うことになるので右手はフリーにできる。右利きのロアにとっては、ベストに近い選択と言えるだろう。
大した怪我もなく、決勝戦まで勝ち上がったロア。問題は決勝の相手だ。アルベールは眉をひそめた。確かに、カナンテシティで開催されるからと言って、別の街の住人に参加権がないわけではないのだが――。
――呆れた。何故、よりにもよって隣町のゴロツキが参加してくるんだ。
ボルドータウン。カナンテシティとはうってかわって、アングラ組織が仕切る非常に治安の悪い町である。何度かこの街にやってきては騒ぎを起こすので問題にはなっていたのだ。そのボルドータウンを仕切るアフィアの下部組織、“ボルドーの狼”のボス・ダンテーノが何故こんな闘技大会に出場してくるのだろう。
2メートル150キロをゆうに超える巨漢。
筋骨隆々の体に、重さ1トンを超えるハンマーを振り回すとんでもないヤツだ。今回の闘技大会、ロア以外の試合もいくつか見たが――ダンテーノの試合はどれもけが人続出の酷いものであった。相手が降参する気配を見せても、はっきりとバッジを差し出してくるまでは攻撃を止めないのだ。中には下半身の骨を粉々に砕かれて、再起不能にされてしまった者もいる。
幸いなのは、魔法が極端に苦手であり、力押しの技ばかり使ってくるということであろうが――。
――ロア、無理をするな……!たとえ、街のみんながお前に勝って欲しいと願っているとしてもだ!
決勝戦までダンテーノが上がって来てしまった以上、既にその優勝を阻めるのはロアだけとなってしまっている。街の人々はみんな、あんな荒くれ者ではなく街の人気者であるロアに勝って欲しいと願っているはずだった。ダンテーノが優勝した場合、賞金はもちろんとんでもない願いを言われる可能性が極めて高いからである。それこそ、村の女性の誰かを強引に嫁として連れ去られてしまうことも考えられるのだ――たとえ、その願いを絶対に叶えなければいけないなんて規則はないとしても。願いが叶えられなければ、きっとダンテーノは好き勝手に暴れて町を立ち去ることだろう。
何故あんな男のエントリーを許してしまったのか、なんてことを今更言ってもどうにもならない。次回からは街の外部の人間の参加は制限されるかもな、とアルベールは思った。今は次回以降のことではなく、ロアが無事に生きて帰ることができることの方が大事だ。
「ロア、無理するな……!約束を忘れるなよ!」
アルベールが思わず声を張り上げると、闘技場に出てきたロアはすぐに反応してこちらを振り返った。そして。
「心配いらねーよ」
にっかりと。いつもの笑みを向けてみせたのである。
「この戦い、俺は絶対負けられないんだ。だから何がなんでも勝つ。お前との約束も守る。そこで、信じて見守っていてくれよな!」
そして彼は。乱暴者の巨漢を前に、そっと自らの剣を構えて見せたのだった。
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