そして、アルベールは笑った。

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 ***  アルベールは驚いた。  まさかロアに、こんな知的な戦い方ができるとは思ってもみなかったからだ。確かに彼が、ここ半年以上前から魔法をメインに特訓を重ねていたことは知っていたが。 ――闘技場の広さは、さほど広いものじゃない。強烈なハンマーの一撃を誇るダンテーノの攻撃範囲から逃れるのは、そうカンタンなことじゃない……。  闘技場の円の中から出てしまったら、問答無用で失格になってしまう。だが、ダンテーノの強烈な攻撃をかいくぐって接近戦を仕掛けるのはそうたやすいことではない。定石で考えるのなら、ダンテーノの射程外から魔法で遠距離攻撃をするのが安全。それはロアもわかっていたはず。機動力と射程でいうならば、魔法が使えてすばしっこいロアに軍配が上がるはずだったからだ。  しかし、ロアは危険を犯してダンテーノに接近し、剣で切りつけてヒット&アウェイを繰り返した。まるでダンテーノを挑発するように。 「バカが!この俺相手に接近戦で勝負になると思ってたのかよ!挽肉にしてやるぜ!」  それには、当然意味があった。よくよく考えればダンテーノも、相手が魔法で遠距離射撃してくることは想像していたはずである。その場合は、恐らくあの大きなハンマーを投げつけて敵を破壊するやり方を選んでいたはずだった。――実は、定石と呼ばれる魔法射撃にも穴はあるのである。それは、一発打った後に隙が出来るということ。魔法を打った直後にすぐ回避行動は取れないということである。  そこにハンマーを投げつけられていたら、病院送りは免れられなかっただろう。下手をしたらそのまま死んでいたかもしれない。ゆえに、ロアはハンマーを投げつけるという選択を相手が思いつかないよう、自暴自棄になったフリをして接近戦を挑んだのだ。本当の狙いに気づかれないよう、工作をしながら。そして。 「んがっ!?」  やがて。ロアの剣全てを防ぎ、ノーダメージに見えたダンテーノが膝をついた。その足下には大きく――いつの間にか、ロアが剣の風圧で書いた魔法陣が完成されている。 「書き終えたタイミングで効果を発動する魔法陣だ、動けねーだろ!これで終わりだぜ!」  そして、ロアは膝をついて身動きが取れなくなったダンテーノに斬りかかったのである。彼の肩につけられたバッジを、魔法を宿った剣で切り裂いたのだ。  ロアの勝利が、決定した瞬間だった。 「すげええええええええ!ロア!」 「ロア・クローム!万歳!万歳!」 「優勝はロアだ、ロアだ!」 「おめでとう!」 「お前の願いはなんだ、なんでも叶えてやるぜ!」 「やったあああああ!」  大歓声が、巻き起こった。魔法で拘束されたダンテーノが運び出されると同時に、主催が優勝カップを持ってくる。アルベールはといえば――心の底からほっとして、椅子にずるずるとへたりこんでいる状態だった。  まさか、あのロアが優勝するとは。しかもダンテーノという強敵を倒して。優勝も嬉しいが――とにかく彼が、大きな怪我もなく生還してくれたことが、何よりの喜びだった。 「よ、良かった……ロア……!心臓に悪い真似、しやがって……!」  後で一発ブン殴っても許されるだろうか、なんてややらしくもない野蛮なことを思うアルベールである。 ――そういえば、結局あいつの願いが何であるのかちゃんと聞いてなかったな。告白したいっぽい雰囲気だったが、一体誰にだ?  どうにか脱力した体勢を直し、目の前の授与式に見入るアルベール。優勝カップをロアに渡しながら、主催の男性が毎年恒例の言葉をかける。 「それでは、優勝したロア・クロームさん!この優勝カップと、我らがカナンテの女神に、何かお願いしたいことはありますか?」 「はい、あります!」  カナンテシティは、カナンテという女神の名前を貰って名付けられた都市である。その女神の守護の元聖戦を行うという名目で、この闘技大会は開催されているのだ。ゆえに、優勝者は女神に対してお願いするという形式を取るのである。
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