6人が本棚に入れています
本棚に追加
カラオケ店を出ると、暗くなった空で星が瞬いていた。
「何であのおばさんは階段で食事することが社会をだめにするって言うの?」
「何かに文句を言わないとやっていけないんでしょ」
今は八時。美輝と那波が入店してから、三時間ほどが経過していた。
外はすっかり暗くなっている。
冬の冷たい風が吹き抜けた。
「おおっ寒。ウチ、トイレ行きたくなっちゃった」
「うーん。あそこにトイレあるよ。行ってきな」
美輝は近くにあったトイレの公衆トイレを指差した。
「怖いから一緒に着いてきてよー」
「わかったわかった」
美輝は那波に引っ張られるようにしてトイレへと入っていった。
那波が個室で用を足している間、私は洗面所の前に立っていた。
ほの暗い場所で見る鏡は不気味だ。何か良からぬものが映りこみそうな気がする。
「ねえ、なんか臭くない?」
個室から出てきた那波が手を洗いながら呟いた。
確かに臭かった。トイレ固有の臭いではなく、どちらかというと鉄のような臭い。
「那波も感じてたの? 私だけかと思ってた」
「ここからじゃない?」
那波が清掃用具入れの扉に手をかけた。
「開いてる」
扉が少しずつ開いていき、現れたそれに、美輝は息を呑んだ。
そこにあったのは君田の死体だった。
胸には鎌が深く突き刺さっており、恐怖に引き攣った表情で、彼女は死んでいた。
白いブラウスがどす黒く染まっている。
「うそ……」
那波は口を抑えた。その目からは涙が溢れ出ていた。
最初のコメントを投稿しよう!