6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここ」
美輝が清掃用具入れの扉を指差すと、界が扉に手をかける。
トイレは寒かったが、シャツは汗で張り付いていた。
「開けるぞ」界がそっと扉を開いて、その場に固まる。
「まじかよ……」
中を覗いて界が呟き、潤は口元を手で覆った。
***
その後、警察が来た。
野次馬も次から次へと増え、公園は騒然とした。
界の父親である、根尾鋭介がその場を仕切っていた。年齢は五十代前後で、落ち着いた雰囲気の人だった。
現場からは何も証拠が検出されず、四人は疑いをかけられる事なく解放された。
美輝と那波は親がそれぞれ迎えに来てくれたが、潤は一人、そのまま帰って行った。
美輝はシャワーを浴びながら考えていた。
現場には証拠がない。
このことから犯人を推測すると、どうしても潤に行き着いてしまった。
能力を使って犯行に及んだとすれば、被害者には指一本触れずに済むのだ。
そこで死体を見た潤の顔を思い出す。
彼の態度は至って普通で、芝居をしているようには見えなかった。それに美輝はどうしても、彼が人を殺すとは思えない。
確かに異様な雰囲気な持ち主であり、あの場所にいたという怪しさはある。
しかしながら、彼からはどこか温かいものを確かに感じられる。
これは直感でとしか言いようがないのだが、彼は悪人でない気がしてならなかった。
彼はどんな人なのだろう。
恐怖がにじり寄ってくる一方、好奇心はどんどん増していく。
シャワーの水を止める。
風呂場の天井から滴る水滴が、ぽちゃんと響いた。
最初のコメントを投稿しよう!