学校

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学校

 放課後、河原に行くのが日課になった。  ほぼ毎日、潤はそこにいた。  映画について来る日も来る日も語り合ったが、話題は決して尽きなかった。  最初はあんなに素っ気なかった潤が、ミステリー以外の話をするときも、目を見て話してくれるようになり、笑顔を見せてくれた。  彼の新しい一面を知る度、私の中にある温かい感情が大きくなっていった。何だかむずがゆい、早い春の訪れのような感覚。  帰り道で話に夢中になると潤は、私の家の前まで着いてきた。そうしているうちに、話をしなくても潤は家まで送ってくれるようになった。  ある日、美輝は家の前まで送ってくれた潤に切り出した。 「学校に行ってみない?」  彼は犬の事件以来、一度も学校に来ていなかった。  彼の表情が硬くなり、黙り込んでしまう。 「私も一緒に行くから、顔だけでも出してみない?」  彼は無言で一点を見つめる。  口と一緒に心まで閉ざされたのではないか。  不安が私の心に渦巻く。   「いや」  彼の声は平静だった。 「迷惑かけるだろうし、一人で行ってみるよ」  私は力強く頷いて「応援してる。困ったらいつでも呼んで」と肩に手をかけた。  帰り道、彼が見せた背中はいつもより小さく見えた。  何やら、もやのような重い塊が空気に充満している、そんな気がした。
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